はじめに
本書の目的
本書は、解雇予告手当(退職予告手当)の計算方法をわかりやすく整理したガイドです。法律上の基本概念から、実際の計算手順、平均賃金の算出、支給対象日数の計算例、最低保障額や支払い時期、税金の取扱いまで順を追って解説します。数式や専門用語は必要最小限にし、具体例を交えて説明します。
読者を想定した使い方
- 企業の人事・労務担当者が実務で使えるように
- 解雇や退職に関わる従業員が自分の権利を確認できるように
- 社労士や相談窓口に質問するときの準備資料として
本書の構成(全9章)
第1章 はじめに
第2章 解雇予告手当の基本概念
第3章 解雇予告手当の計算式
第4章 平均賃金の計算方法
第5章 支給対象日数の計算方法
第6章 実際の計算例
第7章 最低保障額の確認
第8章 支払い時期
第9章 所得税と源泉徴収の取り扱い
注意点
法令や判例によって具体的取扱いが異なる場合があります。個別の事情があるときは、労働基準監督署や専門家に相談してください。
解雇予告手当の基本概念
定義
解雇予告手当とは、使用者が労働者を解雇する際に、労働基準法で定められた30日以上の予告をしない場合に支払う手当です。30日分の予告期間を設けないとき、賃金相当額を手当として支払います。
支払われる場面
- 即時解雇(予告なし)のときは、30日分の手当を支払います。
- 解雇予告期間が30日に満たないときは、不足日数分の手当を支払います。
目的と性格
この手当は、解雇による生活上の急な困難を和らげるための補償です。賃金の一部ではありますが、通常の給与とは別に扱われます。税金や社会保険の扱いは第9章で詳しく説明します。
具体例(簡単)
- 例1:予告なしで即時解雇した場合 → 30日分の賃金相当を支給。
- 例2:10日前に解雇予告した場合 → 20日分(30日−10日)の賃金相当を支給。
詳細な計算方法や平均賃金の扱いは次章以降で丁寧に解説します。
解雇予告手当の計算式
基本の式
解雇予告手当は次の計算式で求めます。
解雇予告手当 = 平均賃金 × 支給対象日数
この式の通り、金額は「1日あたりの平均的な賃金」と「何日分支払うか」を掛け合わせて算出します。
各項目の意味(かんたんな説明)
- 平均賃金:一定期間の賃金を日数で割った1日分の平均額です。基本給のほか手当が含まれる場合があります。正確な算出方法は第4章で詳しく説明します。
- 支給対象日数:雇用主が労働者に対して予告を行わなかった、あるいは予告期間が短かった場合に支払う日数です。一般的には30日分が基準となるケースが多いですが、個別の事情で異なります。詳細は第5章で扱います。
具体例(わかりやすく)
たとえば、ある人の平均賃金が1日8,000円で、支給対象日数が30日ならば:
解雇予告手当 = 8,000円 × 30日 = 240,000円
別の例として、平均賃金が6,500円で支給対象日数が10日の場合は:
解雇予告手当 = 6,500円 × 10日 = 65,000円
注意点
- 平均賃金と支給対象日数の算出がそのまま金額に直結しますので、どちらも正確に出すことが大切です。
- 平均賃金に含める賃金の範囲や支給対象日数の決め方は細かい規定があります。詳しい計算方法と判定基準は第4章・第5章で順にご案内します。
平均賃金の計算方法
平均賃金は、解雇予告手当などを計算する際に使う基準額です。ここでは、2つの計算方法と扱いについて分かりやすく説明します。
計算方法1(原則)
直近3か月間の賃金総額を、その期間の暦日数で割ります。暦日数とはカレンダー上の合計日数(たとえば90日や91日)です。算出した金額が平均賃金(原則)になります。
計算方法2(最低保障額)
直近3か月間の賃金総額を実際の労働日数で割り、その結果に0.6を掛けます。実労働日数は休暇や欠勤を除いた勤務日数です。これが最低保障としての平均賃金になります。
どちらを使うか
2つのうち高い方を採用します。つまり、原則計算と最低保障額を比較して、より高い金額が適用されます。
賃金総額に含まれるもの
賃金の額面総額を使います。賃金には基本給に加え、通勤手当や残業代なども含めます。会社が給与の一部を現物支給している場合の扱いは別途確認が必要です。
小数処理
計算の結果、小数点第3位以下は切り捨てます(例:1234.567→1234.56)。
簡単な例
賃金総額900,000円、暦日数90日、実労働日数60日の場合:
– 方法1:900,000÷90=10,000円
– 方法2:900,000÷60×0.6=9,000円
高い方の10,000円が平均賃金となります。
支給対象日数の計算方法
説明
支給対象日数は、労働基準法に基づき「30日から、解雇予告期間を差し引いた日数」で算出します。ここでいう解雇予告期間は、解雇予告をした日の翌日から解雇日までの日数です。予告が30日以上あれば支給対象日数は0日となり、30日未満なら不足分を支給します。
計算式
支給対象日数 = 30日 − 解雇予告期間(解雇予告日の翌日から解雇日まで)
※ 結果が負の数になった場合は0日として扱います。
計算手順(具体的で分かりやすく)
- 解雇予告をした日を特定する。2. その翌日から解雇日までのカレンダー日数を数える。3. 30日からその日数を引く。4. 結果が0未満なら0日とする。
具体例
- 例1:解雇日の12日前に予告があった場合
- 解雇予告期間 = 12日
- 支給対象日数 = 30 − 12 = 18日
- 例2:解雇当日に通知(予告期間0日)の場合
- 解雇予告期間 = 0日
- 支給対象日数 = 30 − 0 = 30日
- 例3:解雇日の40日前に予告があった場合
- 解雇予告期間 = 40日 → 支給対象日数 = 30 − 40 = −10 → 0日
注意点
- 日数はカレンダー日数で数えます。土日や祝日も含めます。\
- 部分日(時間単位の端数)は原則として扱いません。日単位で計算してください。\
- 解雇ではなく自己都合退職など、別の手続きが関係する場合は適用が異なりますので、事例に応じて確認してください。
以上の手順で支給対象日数を算出できます。次章では、この日数を用いた実際の解雇予告手当の計算例を示します。
実際の計算例
以下では、具体的な数値を使って解雇予告手当の計算手順をわかりやすく示します。
例1:従業員Aの場合
- 対象期間の賃金合計:1,035,000円(過去3か月)
- 日数:3か月の合計を92日とする(31日+30日+31日)
- 平均賃金の算出:1,035,000円 ÷ 92日 = 11,250円/日
- 解雇予告期間:6日
- 支給対象日数:30日(法定の予告期間)− 6日 = 24日
- 解雇予告手当:11,250円 × 24日 = 270,000円
この例では端数が出ないため、そのまま270,000円が支給額となります。
例2:別のケース
- 平均賃金:13,043円47銭(小数・銭単位の計算結果)
- 支給対象日数:20日
- 解雇予告手当:13,043.47円 × 20日 = 260,869.4円
最終的な支給額は円単位で処理します。小数点以下は会社の取り扱い(四捨五入や切り捨てなど)に従い1円単位に調整してください。一般的には円未満の端数は四捨五入されることが多いです。
計算の注意点
- 対象となる日数の取り扱いは、会社の就業規則や労働基準法の適用により変わる場合があります。今回の支給対象日数は「法定の30日から実際の予告日数を引く」方法で示しました。
- 賃金の集計期間や日数の考え方は、会社ごとに取り扱いが異なることがあります。疑問がある場合は総務や労働基準監督署に確認してください。
最低保障額の確認
概要
平均賃金を算出する際は、「計算方法1」の結果だけでなく、最低保障額を確認します。計算方法1の値が最低保障額より低ければ、最低保障額を採用します。
具体例
賃金総額:900,000円
実労働日数:60日
この例で規定された最低保障額:9,000円
計算方法1で1日当たり8,000円と算出された場合は、最低保障額9,000円を適用します。計算方法1が12,000円なら、その12,000円を用います。
判定手順
- 計算方法1で1日あたりの平均賃金を算出する。
- 会社規定や法令で定められた最低保障額を確認する。
- 計算方法1の値と最低保障額を比較し、高い方を採用する。
注意点
最低保障額は会社の就業規則や労使協定、法令によって決まることがあります。適用基準や計算期間が異なる場合があるため、疑問があれば就業規則や労務担当に確認してください。
支払い時期
支払いの基本
解雇予告手当は、労働者に30日以上の解雇予告をしなかった場合に支払うもので、支払時期は明確です。即時解雇(予告なしでその場で解雇する場合)は、解雇と同時に手当を支払います。解雇予告期間が30日に満たない場合も、解雇日までに支払う必要があります。雇用主が予告を行い30日を満たしている場合は手当の支払いは不要です。
支払い方法と記録
支払いは現金でも振込でもかまいませんが、従業員に明細を渡し、支払い記録を残すことが重要です。明細には「解雇予告手当」の金額、計算根拠、支払日を記載してください。書面やメールでの確認が後々のトラブル防止になります。
実務上の例
例:9月15日に即時解雇した場合は、9月15日に解雇予告手当を支払います。9月1日に解雇を告知したが30日に満たないまま9月20日に解雇する場合は、9月20日までに手当を支払います。
遅延や未払いが発生したら
支払いが遅れると従業員との紛争につながります。支払いが行われない場合は、労働基準監督署への相談や法的措置を検討することになります。雇用主は支払いと記録の管理を徹底してください。
最後に
退職時の最終給与と合わせて支払う場合は、支払い日や明細を明確にして、従業員に説明してください。円滑な手続きを心がけることでトラブルを防げます。
所得税と源泉徴収の取り扱い
概要
解雇予告手当(解雇予告手当や代替給付)は退職所得に該当します。課税の基本は「退職所得控除」を差し引いた後の金額で、控除額を超えると所得税の源泉徴収が発生します。
退職所得控除の計算
- 勤続年数が20年以下:40万円×勤続年数(ただし最低80万円)
- 勤続年数が20年を超える:800,000円 + 70万円×(勤続年数−20)
※ご提示の通り、控除の下限は80万円です。
課税対象額の計算方法
- 退職手当などの総額から退職所得控除額を差し引きます。
- 残額がプラスなら、その金額の1/2が課税対象の退職所得になります。
- 残額がゼロ以下なら課税されません。
計算式(簡易):課税退職所得=(退職金等−退職所得控除)÷2
源泉徴収の取り扱い
控除後の課税退職所得がある場合、会社は支払い時に所定の税額表に基づき源泉徴収します。支払時点で税額が決められ、源泉徴収票が交付されます。最終的な税額は確定申告や年末調整で精算される場合があります。
具体例
勤続25年、解雇予告手当を含む退職金800万円の場合:
– 退職所得控除=800,000円 + 700,000円×5 = 4,300,000円
– 差引=8,000,000円 − 4,300,000円 = 3,700,000円
– 課税対象=3,700,000円 ÷ 2 = 1,850,000円(この額に対して源泉徴収や確定申告で税額が決まります)
注意点
- 他の給与と合算される扱いや、支払い方法で処理が変わることがあります。
- 源泉徴収された税額は必ず最終的に確定申告や会社の精算で確認してください。


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