はじめに
本資料の目的
本資料は、取締役が会社を辞める際の方法と手続きについて分かりやすく整理したものです。法律用語や手続きの違いを具体例で示し、実務で迷わないように解説します。対象は取締役本人、総務担当者、司法書士など手続きに関わる方です。
取締役の退職の全体像
取締役の退職には主に「辞任」「退任」「解任」の三つがあります。辞任は本人の意思表示で成り、例として「一身上の都合で辞任する」といった形です。退任は任期が満了したことで自動的に退くケースで、たとえば任期が2年で満了した場合です。解任は会社(主に株主総会)の意思により職を解くもので、株主総会での決議が必要になります。
退職後の手続きの概要
退職後は法務局への役員変更登記が必要です。登記を怠ると対外的な信用や手続きに支障を来すため、速やかな申請が望まれます。
本書の読み方
各章で手続きの要件、必要書類、注意点を順に説明します。実務で使えるポイントを中心にまとめていますので、状況に合わせて該当章を参照してください。
取締役退職の3つの方法の区別
概要
取締役が会社を辞める方法は主に「退任」「辞任」「解任」の三つです。見た目は同じ「取締役をやめる」でも、原因や手続き、会社・本人の責任の有無が異なります。
退任(任期満了)
任期の満了により自動的に役職を離れます。通常、取締役の任期は定款や会社法で定められ、原則2年です。本人の意思表示は必要ありません。例:就任から2年経過して任期が終わる。
辞任(本人の意思)
取締役本人が一方的に辞める意思を示して退職します。株主総会の決議は不要ですが、会社の定めや就業規則に従い書面での届出が求められることがあります。例:健康上の理由で本人が辞任する。
解任(会社の意思)
会社側の意思で取締役を職務から外します。任期途中でも可能で、通常は株主総会の決議が必要です。本人の同意は不要で、解任理由が争点になることがあります。例:重大な職務怠慢で取締役を解任する。
違いが分かるチェックポイント
・原因:自身の都合(辞任)、任期到来(退任)、会社側の決定(解任)
・手続:辞任は本人の届出、退任は任期経過、解任は通常株主総会決議
・影響:解任は争いになりやすく、辞任・退任は比較的円満に進みます。
辞任の手続きと特徴
概要
辞任は本人が辞任届を会社に提出するだけで成立します。株主総会の決議は通常不要です。書面で提出することが一般的で、受領日を明確にするためにも書面をおすすめします。
手続きの流れ
- 辞任届の提出:本人が会社に辞任届を提出します。日付や理由を記載すると後の確認が楽になります(例:健康上の理由で◯月◯日付で辞任)。
- 受領・記録:会社は受領日を記録し、取締役会での報告や議事録に記載することが多いです。記録により後のトラブルを防げます。
- 登記対応:取締役の変更は登記が必要です。代表取締役の変更は特に早めの登記手続きが望まれます(登記手続きの詳細は第7章を参照)。
代表取締役が辞任する場合
代表が辞任すると契約の執行や印鑑登録に影響します。取締役会を招集して後任代表を選ぶ運用が一般的です。口頭の辞任でも成立しますが、スムーズな業務継続のため書面で明確にすることが大切です。
取締役人数が不足した場合の対応
辞任により定款や会社法で定める人数を下回ると、速やかに後任を選任する必要があります。臨時株主総会や取締役会で補充し、登記も忘れず行ってください。
辞任の主な理由と注意点
よくある理由は健康、業績不振、経営方針の対立、個人的事情などです。過去の職務に関する法的責任は辞任によって免れない点に注意してください。
退任の手続きと特徴
概要
退任は取締役の任期が満了したときに自動的に発生します。本人が特別な届出を出さなくても効力が生じます。会社法の定めにより、任期満了によって自然に職務が終わるイメージです。
発生のタイミングと流れ
任期満了日に効力が発生します。例えば任期が2年で満了日が到来したら、その日をもって取締役の地位は消滅します。手続き自体は不要ですが、再度その人に続けてもらいたい場合は選任の手続きが必要です。
再任を希望する場合
継続希望があるなら、株主総会や取締役会で再任の議決を受ける必要があります。選任の手続きが完了すれば、同じ人が引き続き役員を務められます。手続きを行わなければ自動的に退任となります。
実務上の注意点
法的には届出は不要でも、社内外への連絡や引継ぎは重要です。担当業務の引継ぎ、銀行の取引署名の変更、社内名簿の更新などを速やかに行ってください。
解任の手続きと法的要件
概要
解任とは株主の意思で取締役を職から外す手続きです。株主総会の決議で行います。会社法上、株主はいつでも解任を決議できます。
株主総会での決議
通常は、株主総会に出席した株主の議決権の過半数の賛成で解任できます。具体的には株主総会を招集し、解任議案を提出して採決します。手続きは株主総会の通常の流れに則ります。
累積投票で選ばれた取締役
累積投票制度で選出された取締役を解任する場合は、特別決議が必要です。特別決議は通常の多数決より厳しい要件ですので、事前に株主構成や賛成見込みを確認してください。
解任理由と責任
解任理由には不適切な経営、法令違反、重大な背信行為などが含まれます。正当な理由があれば、解任された取締役は原則として損害賠償を請求できません。一方で、手続きに重大な瑕疵がある場合や解任が明らかに不当ならば、取締役から異議や損害賠償の主張が出る可能性があります。
手続き上の注意点
議案の作り方、招集通知の記載、議事録の作成など手続き遵守が重要です。株主間の対立が予想される場合は弁護士等に相談し、透明性を確保してください。
解任時の登記申請書類
取締役の解任決議後は、会社が法務局へ登記申請を行います。ここでは、実際に必要となる主な書類を分かりやすく説明します。
1. 登記申請書(法務局所定様式)
法務局のウェブサイトに申請書のフォーマットがあります。会社名や本店所在地、登記の原因(解任)と日付、解任された取締役の氏名などを明確に記入します。
2. 株主総会議事録
解任決議の事実を証する最も重要な書類です。開催日時、場所、出席株主数、議案、決議の結果を記載し、議長や代表者の署名・押印がある原本を用意します。例:議事録に「取締役○○の解任を決議」と明記。
3. 株主名簿(株主リスト)
当該総会の出席者や議決権の状況を示すために添付します。誰がどの程度の議決権を持っていたかが分かる形で準備します。
4. 委任状(代理人が申請する場合)
代表者ではない人が登記申請を行うときに必要です。委任者の署名・押印を入れた原本を用意し、代理人の本人確認書類も用意すると手続きがスムーズになります。
注意点:書類の原本提出や押印の有無などはケースにより異なります。法務局の様式や窓口での確認を必ず行ってください。
退職後の法務局登記手続き
1. 申請期限と対象事由
取締役が辞任・退任・解任・欠格事由が生じた場合など、役員に変動があれば「2週間以内」に法務局へ役員変更登記を申請する必要があります。期限は法律で定められており、早めの対応が大切です。
2. 手続きの流れ(実務的な順序)
- 事実の確認:辞任届や議事録で変更内容を明確にします。具体例:代表取締役の辞任は株主総会または取締役会の議事録が必要です。
- 書類の準備:登記申請書と該当する証明書類を揃えます。
- 申請の提出:法務局に窓口持参、郵送、またはオンラインで申請します。
- 登記完了の確認:登記が完了したら登記事項証明書で内容を確認します。
3. よく使う添付書類(例)
- 取締役の辞任届または議事録
- 取締役の就任承諾書(新任がある場合)
- 代表取締役の印鑑証明書(代表者の変更がある場合)
- 会社印や代表者の署名(申請書類に必要)
4. 実務上の注意点
- 期限内に申請しないと対外的信用に影響します。手続き漏れは早めに是正してください。
- 代表変更や住所変更など、他の登記も同時に必要なことがあります。まとめて手続きを行うと手間が省けます。
- 書類の不備や印鑑の違いで受理されない場合があります。内容を丁寧に確認してください。
5. 迷ったときの対処
不安がある場合は司法書士や専門家に相談すると確実です。代理申請を依頼すれば手続きの負担を軽くできます。
辞任届と退職届の違い
要点
取締役の退任には「辞任届」を使います。一般従業員の「退職届」と性質が異なり、辞任届の提出のみで法的効力が生じます。株主総会の決議は通常不要で、辞任後は速やかに登記手続きが必要です。
主な違い(わかりやすい例つき)
- 性質
- 辞任届:役員本人が職を辞する意思表示。取締役Aが健康上の理由で職を離れるとき、Aが辞任届を出すと効力が生じます。
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退職届:雇用契約を終了させるための意思表示。一般社員は会社側の手続きや引継ぎが関係します。
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効力の発生
- 辞任届は提出により効力が発生します(別段の定めがある場合は除く)。
- 退職届は会社側との合意や通知期間の扱いで実務上の取り扱いが変わります。
提出方法と実務ポイント
- 文書で残すことをおすすめします。口頭だと証拠が残りません。
- 発効日を明記すると争いを避けられます(即日または将来日を指定)。
- 会社は辞任を受けて、登記申請を行います。登記は会社側の義務なので速やかに処理してください。
登記に必要なもの(一般的)
- 変更登記申請書
- 当該取締役の辞任届の写し
- 代表者の就任・退任が絡む場合は印鑑証明書など
実務上の注意点
- 書式は自由でも法的効力は変わりませんが、署名・日付は必ず記載してください。
- 取締役の辞任は会社の対外的な信用に影響します。必要に応じて社内通知や株主への説明を行ってください。


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