はじめに
本資料は「有給消化 休日」について、法律上の関係と現場での扱いをわかりやすく整理したものです。日常の休暇管理で迷いやすい点を具体例で示し、労働者と事業者の双方が実務で役立てられるようにまとめました。
目的
- 有給休暇と休日の違いを明確にする
- シフト制や退職時の取り扱いなど実務上よく起きる事例に対応できるようにする
- 計画的な有給消化や繰越ルールの基本を理解してもらう
対象読者
- 一般の労働者
- 人事・総務担当者や管理職
本書の使い方
各章は具体的な事例を交えて説明します。まず第2章で有給が発生するタイミングを確認し、その後に休日との関係やシフト制での注意点、退職時の扱い、計画的消化や年ごとの繰越ルールへと進みます。現場での疑問にすぐ答えられるよう、実務上の注意点は最終章にまとめます。
有給休暇は所定労働日にのみ発生する
定義と基本
有給休暇は、労働者に労働義務が生じる「所定労働日」に対して発生します。所定労働日とは、労働契約や就業規則で会社が労働を求める日を指します。会社があらかじめ定めた休日(週末や祝日など)は所定労働日に含まれません。
具体例で分かりやすく
- 例1(固定の週休二日制): 会社が月〜金を所定労働日と定めている場合、土日は休日です。金曜日に有給を使えば有給扱いになりますが、土日に有給を充当することは原則認められません。
- 例2(シフト制): その週に出勤予定だった土曜日がシフトで所定労働日になっていれば、有給を使えます。個人ごとの勤務予定で判断します。
実務上の注意点
- 所定労働日は労働契約や就業規則、勤務表で確認しましょう。
- 会社が休日を勝手に有給に振り替える扱いを提案した場合、記録を残し確認を求めてください。労働者側の誤解を防ぐため、申請は書面やメールで行うと安心です。
よくある誤解
有給は“休める日”というイメージがありますが、法律上は労働を要する日に対して付与されるものです。自分の勤務日と会社の定めを照らし合わせて扱いを判断してください。
法定休日と所定休日への有給充当は違法
法定休日と所定休日の違い
法定休日は法律で定められた最低限の休日(週1日の休みなど)です。所定休日は就業規則で決めた会社の休日(例:土日)。両者は扱いが異なりますが、どちらも労働者の休息を守るため重要です。
有給休暇を休日に充てられない理由
有給休暇は本来、所定労働日に労働義務を免除するための制度です。会社が法定休日や所定休日にその有給を充てると、休息が実質的に奪われる恐れがあるため認められません。企業が休日を有給で埋める運用は、休息権を損なうため違法となる場合があります。
具体例
完全週休二日制で土日が休みの会社で、会社が「土日は有給消化に充てます」と一方的に決めるのは誤りです。社員の年間有給日数を減らし、実質的な休みを減らす事例が問題になります。
取るべき対応(労働者向け)
まず就業規則と有給管理の記録を確認してください。会社の指示が不明確なら書面で求め、給与明細やメールを保存します。不当な扱いを受けた場合は最寄りの労働基準監督署に相談することをおすすめします。
企業の注意点
休日の扱いは就業規則に明確に記載し、従業員と合意の上で運用してください。どうしても業務調整が必要な場合は、別途の休暇制度や有給の計画的付与を検討するとよいでしょう。
シフト制での有給消化の特殊性
基本の考え方
シフト制では、有給休暇は「その日が所定労働日であること」が前提です。事前にシフトが組まれていない、つまり勤務の予定が入っていない日は、原則として有給を充てられません。
所定労働日と判断される場合
会社があらかじめ固定のシフト表やローテーションを示している場合、その日に勤務予定があると見なされ、有給が使えます。たとえば「毎週火曜は出勤」と就業規則やシフト表で示されているなら、火曜を有給で消化できます。一方で、シフトが直前に決まる職場では、その日の割り当て次第で扱いが変わります。
具体例
- シフト表であなたの名前の下に出勤と記載されている日:有給を申請できます。
- シフト未確定で後から出勤を頼まれた日:会社と相談し、当初から勤務予定だったかで判断します。
- 待機やオンコールの扱い:契約や就業規則で労働とみなされるか確認してください。
手続きと確認ポイント
- 雇用契約書と就業規則で「所定労働日」の定義を確認します。
- シフト表やローテーションの扱いを保存し、申請時に提示します。
- 会社が有給を拒否した理由を文書で求め、解決できないときは労働基準監督署などに相談します。
したがって、シフト制では事前の確認と記録が何より重要です。
退職時の有給消化と休日の扱い
有給消化と休日の違い
退職時に有給を消化する場合、会社の定める休日(週休2日など)は有給日数に含めません。つまり有給は所定労働日にのみ減ります。休みは公休としてそのまま扱います。
具体例
土日休みの会社で月〜金の5日間を有給申請すると、有給の消化は5日分です。土日は有給に含まれず、公休で休みになります。退職日は最終出勤日+有給日数+公休で決まります。
手続きと注意点
退職届と有給申請は早めに提出してください。会社が有給消化を認めない場合、未消化分は金銭で清算されることがあります。給与計算や有給残日数の確認を忘れずに行ってください。
最終出勤日の確認
申請した有給日数と会社の休日を照らし合わせて、最終出勤日と退職日を明確にしましょう。疑問があるときは労務担当に書面で確認すると安心です。
有給消化義務化と年5日の消化ルール
概要
2019年4月の労働基準法改正で、年間10日以上の有給休暇を付与される労働者について、事業主が年5日以上の取得を確保する義務を負いました。義務を果たさない場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
対象者
付与日において年次有給休暇が10日以上ある労働者が対象です。パートやアルバイトでも付与日数が基準を満たせば対象になります。
消化期限(基準日から1年以内)
年5日分は、その付与日(基準日)から1年以内に取得させる必要があります。例えば4月1日付与なら翌年3月31日までに5日以上取得させます。
事業主の具体的対応
・従業員に取得促進の説明と記録を行います。
・申請がない場合は使用者が取得日を指定できます(業務の調整を行い配慮すること)。
・取得管理をし、基準日から1年以内に不足があれば対応します。
違反時の罰則
違反すると労基法違反となり、罰金(30万円以下)などの措置があり得ます。
具体例
付与10日→年5日の取得義務。従業員が取得を希望しない場合でも、企業は業務に支障が出ない範囲で日を指定して消化させる必要があります。
労使協定による計画的な有給消化
概要
企業は労使協定を結べば、付与された有給休暇のうち、労働者が自ら取得することが義務付けられた5日を超える部分について、会社があらかじめ日を指定して消化させることができます。ただし、休日(祝日や法定休日など)に有給を充当することはできず、所定の労働日に対して指定する必要があります。
何ができるか
- 会社全体で同じ日を計画的に有給にすることが可能です。たとえば夏季休暇や年末年始の一斉休業日として指定できます。
- 指定された日は有給扱いとなり、給与は通常どおり支払われます。
注意点
- 休日に有給を割り当てられない点に注意してください。会社が休業にする場合でも、その日が本来の所定労働日である必要があります。
- 労使協定は労働者の代表と結ぶ必要があります。就業規則に反映し、従業員に周知してください。
- シフト制の従業員は、予定された勤務日に合わせて指定する必要があります。
具体例
パート社員Aは年間付与が20日あります。会社は労使協定により、年間のうち10日を計画的有給に指定しました。Aは会社が指定した所定労働日に自動的に有給扱いになります。
運用のポイント
- 事前に十分な周知を行い、個別事情(育児・介護など)がある場合は配慮することをおすすめします。記録を残し、公平に運用してください。
有給休暇の付与日数と繰越ルール
付与日数の基本
有給休暇は勤続期間に応じて段階的に増えます。代表的な目安は次の通りです(法定の最小ライン)。
– 入社後6か月継続勤務:10日
– 1年6か月:11日
– 2年6か月:12日
– 3年6か月:14日
– 4年6か月:16日
– 5年6か月:18日
– 6年6か月以上:20日
会社はこの基準を下回ることはできません。パートや短時間勤務者は勤務日数に応じて日数を按分します。たとえば、週5日勤務で10日付与される人は、週3日勤務だと概ね6日相当になります。
繰越と時効
使わなかった有給は翌年度に繰り越せますが、権利発生日から2年間で時効となり消滅します。付与日ごとに2年のカウントが始まるため、古い有給から順に消化する運用が一般的です。たとえば、2024年4月1日に付与された有給は原則として2026年3月31日までに使う必要があります。
実務上の注意点
- 年度替わりでまとめて繰り越せても、時効を超えた分は消えます。
- 会社が独自に上乗せして付与することは可能です。上乗せ分の有効期間は就業規則で定めます。
- 付与日・残日数は労働者が把握できるように明示しておくとトラブル防止になります。
実務上の注意点
- 休日と所定労働日の区別を明確にする
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就業規則や勤務表で「法定休日」「所定休日」「所定労働日」を明示してください。どの日が有給の対象かを全員が理解できるようにします。
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休日に有給を充当しない
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休日は労働義務のない日です。企業は休日に有給を充てて、有給日数を減らしてはいけません。例えば、土日が休みの社員に対して、その日を有給で消化した扱いにするのは誤りです。
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年5日の消化義務の確実な実行
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対象者には毎年最低5日を取得させる必要があります。計画的付与や本人への取得促進、勤務表での指定などで確実に消化してください。取得状況は記録に残しましょう。
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退職時の有給消化の扱い
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退職届出後に有給を取得する場合、休日は有給日数にカウントしません。実務では勤務表とカレンダーで該当日が所定労働日かを確認し、計算根拠を保存してください。
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記録・通知・システム運用
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申請・承認の履歴を電子・紙で保存し、勤務システムと連動させるとミスが減ります。取得理由や承認者名も残すと労使トラブルを防げます。
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トラブル予防の実務的対策
- 就業規則や運用ルールを研修で共有し、所内相談窓口を設けてください。疑義があれば労務担当者が示す根拠を明示し、言葉でのやり取りだけで済ませないようにします。


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