はじめに
概要
本資料は、65歳定年制度の現状と2025年4月からの完全義務化に関する調査結果を分かりやすくまとめたものです。日本の定年退職制度、法改正の経緯、企業や公務員の対応、年金制度との関連、退職日の決定方法などを多角的に解説します。
本資料の目的
・制度改正が企業と働く人に与える影響を整理します。
・企業の人事担当者、労働者、関心を持つ方が制度を実務で使えるように説明します。
読み方のポイント
各章は実務的な視点で構成します。専門用語は必要最小限にし、具体例で補足します。まず第2章で現状を把握し、第3章以降で改正内容と対応策を順にご覧ください。
以降の章では、改正の背景と段階的な変更点、企業・公務員への影響、退職日の決定方法など具体的な手続きや注意点を丁寧に説明します。
日本の定年退職制度の現状
現状の数字
現在、定年制を導入する企業のうち72.3%が60歳定年を採用しています。65歳定年は21.1%、66歳以上は3.5%にとどまります。このため、60歳定年が長年にわたり日本企業の標準的な慣行になっています。
背景と理由
60歳定年が広まった理由はわかりやすいです。戦後の高度経済成長期に定着した雇用慣行や、年金や退職金の制度設計が影響しました。企業側は人件費や世代交代の調整を理由に60歳を区切りにしてきました。
企業の対応例
多くの企業は、定年到達後も働ける仕組みを用意しています。たとえば、60歳で一度退職扱いにしてから再雇用契約で65歳まで雇用を継続するケースがあります。別の例では定年を段階的に引き上げ、将来的に65歳に近づける企業もあります。
こうした現状は今後の法改正や社会の変化で変わる可能性がありますが、まずは60歳定年が現在の中心である点を押さえておくとわかりやすいです。
高年齢者雇用安定法の改正と65歳定年制の定義
65歳定年制とは
65歳定年制は、企業が従業員の定年を65歳と定める制度です。定年を65歳にすることで、定年退職による雇用の途切れを防ぎ、長く働ける環境を整えます。具体例として、定年を60歳から65歳に引き上げるケースがあります。
2013年の改正と移行期間
2013年に高年齢者雇用安定法が改正され、企業に対して2025年までの移行期間が設けられました。この間、企業は従業員の雇用の安定を図るため、いずれかの措置を講じる必要がありました。
企業が選べる3つの対応
企業は次のいずれかを選びます。1) 定年を65歳に引き上げる、2) 定年は据え置くが再雇用制度を導入して65歳まで雇う、3) 定年制度を廃止して年齢で区切らない雇用とする。例えば、A社は定年を65歳に引き上げ、B社は定年を60歳のまま再雇用制度で65歳まで継続雇用しています。
従業員への影響と注意点
従業員は雇用形態や給与の扱いが変わることがあります。再雇用では雇用条件が変わるケースがあるため、就業規則や契約内容を確認してください。企業は対応方法を明確にして従業員に周知する義務があります。
2025年4月からの完全義務化
概要
2025年4月1日から、高年齢者雇用安定法の経過措置が終了し、65歳までの雇用確保が企業の完全義務になります。企業は65歳まで労働の機会を確保するための措置を実施しなければなりませんが、定年をそのまま65歳にする必要はありません。
企業が取るべき具体策
主な方法として次の三つがあります。定年年齢を引き上げる、希望者を再雇用する継続雇用制度を設ける、定年を廃止する、です。例えば、60歳定年の企業が定年は60歳のままにして、60〜65歳を対象に契約社員として再雇用する制度を整備できます。
対応のポイント
雇用条件や賃金の扱い、契約期間の設定、就業規則の変更や労使間の説明が重要です。中小企業では柔軟な雇用形態(短時間勤務や職務内容の変更)を導入する事例が多くあります。
注意点
企業は65歳までの雇用機会を確保する義務を負いますが、必ずしも同じ職務や同じ給与を維持する義務まではありません。従業員への丁寧な説明と社内手続きの整備が求められます。
経過措置の段階的引き上げ
経過措置の流れ
2013年4月から2025年3月まで、継続雇用制度の対象年齢を段階的に引き上げてきました。具体的には2013年は「61歳以上」、2016年は「62歳以上」、2019年は「63歳以上」、2022年は「64歳以上」と、2年ごとに1歳ずつ上がりました。2025年3月にこの経過措置は終了します。
企業の具体的対応例
多くの企業は段階的引き上げに合わせ、次のように対応しました。例:中小企業Aは定年を60歳から段階的に引き上げ、継続雇用制度を導入しました。大手Bは定年を廃止し、勤務条件で柔軟に雇用を続けています。就業規則の変更や賃金体系の見直しを行うことが多いです。
従業員が確認すべきこと
自分の会社で対象年齢がどう定められているか、就業規則を確認してください。継続雇用の条件(勤務時間、賃金、契約期間)を把握し、必要なら人事や労働組合に相談すると安心です。技能向上や働き方の準備も進めましょう。
年金支給開始年齢の引き上げとの関連性
背景
年金支給開始年齢は、従来60歳から段階的に65歳へ引き上げられ、2025年3月に完了します。この変更は少子高齢化と年金財政の逼迫が理由です。定年制度の改正は、この流れの中で行われています。
60歳定年世代への影響
年金受給開始が遅れることで、60歳で退職すると受給までの空白期間が生じます。その間の生活費をどう確保するかが課題です。企業にとっては、従業員の生活を守るために継続雇用や再雇用制度の整備が求められます。
企業と個人の対応
企業側は就業規則や賃金体系の見直し、短時間や嘱託での雇用継続を検討します。個人は貯蓄や就労機会の確保、技能の習得で備えるとよいでしょう。自治体や年金相談窓口で相談する方法もあります。
影響が出る時期
2025年3月の完了により、以後に60歳を迎える世代は特に影響を受けます。早めに働き方や生活設計を考えることが大切です。
2025年4月からの具体的な変更点
企業が選べる3つの方式
2025年4月から、企業は次のいずれかを選択し実施する必要があります。
- 定年の引き上げ:現在の定年年齢を上げる方式です。例として、60歳だった定年を段階的に引き上げる運用が考えられます。
- 継続雇用制度の導入:定年到達後も一定年齢まで雇用を継続する制度を設けます。たとえば契約更新や再雇用で働き続けられる仕組みです。
- 定年制の廃止:年齢に基づく一律の定年をなくし、能力や合意に基づいて雇用を続ける考え方です。
企業側の具体的対応
企業は選択後、就業規則や雇用契約を整備して従業員に周知します。具体的には方針決定、就業規則の改定、従業員への説明会や個別通知が必要です。例:新しい規則を文書で配布し、窓口で質問を受け付けるといった対応です。
従業員への影響と注意点
従業員は自身の働き方や年金受給のタイミングを見直す必要があります。継続雇用では就労条件が変更されることがあり、賃金や勤務時間の確認が重要です。定年廃止を選ぶ場合、評価基準や雇用継続のルールを明確にしておくよう企業に求められます。
企業は透明性を高め、従業員と十分に協議しながら実施することが望まれます。
雇用保険給付率の変更
概要
2025年4月1日から、高年齢雇用継続給付の給付率が従来の最大15%から最大10%に縮小されます。これは65歳までの雇用確保義務化に伴う見直しです。制度の目的は変わりませんが、給付金の上限が引き下げられます。
変更の中身(わかりやすい例)
単純化した例で説明します。定年前の月給が30万円で、継続雇用後の月給が25万円(差額5万円)の場合、差額に対する給付が支給されます。従来の最大15%だと5万円の15%=7,500円、改定後の最大10%だと5万円の10%=5,000円です。月ごとの受給額はこのように小さくなります。
受給者・事業主への影響
従業員は受給額の減少で実質手取りが下がる可能性があります。事業主は従業員の生活を支える観点や、定年後の賃金設計を見直す必要が出てきます。支給要件自体や申請手続きは基本的に変わりませんが、影響金額は必ず確認してください。
具体的な対応のポイント
- 従業員は会社に現状の賃金や給付見込みを確認する。書面で示してもらうと安心です。
- 事業主は就業規則や賃金テーブルを点検し、必要なら賃金水準や補助策を検討する。
- 不安があれば社労士やハローワークに相談し、正確な算定方法や手続きを確認してください。
注意点
給付の対象や細かな算定方法は個別の事情で変わることがあります。ここでの数値は説明を簡単にするための例示です。正式な手続きや判定は関係機関でご確認ください。
公務員の定年延長
背景
公務員の定年も民間と同様に65歳に引き上げられます。政府は段階的な移行を採り、急な変化を避ける方針です。
引き上げスケジュール
2023年から2年ごとに1歳ずつ定年を引き上げ、2031年4月に全ての公務員の定年を65歳に統一します。例として、2023年に63歳、2025年に64歳、2031年4月に65歳という流れです。
職員への影響
勤続年数や給与設計、昇進のタイミングに変化が出ます。短期的には給与の支払い期間が長くなるため、人件費の見直しが必要です。経験の長い職員が長く現場に残ることは、ノウハウ継承の面で利点になります。
職場での対応
人事部は退職・再任用のルールを見直し、研修や配置転換で能力を活かす工夫をします。個人は自身のキャリアプランを早めに整理し、必要ならスキルアップを図ってください。
具体例
例えば60歳で定年を迎える予定だった職員は、引き上げに伴い再雇用や定年延長の選択肢が増えます。市役所や省庁ごとの運用ルールを確認することが重要です。
退職日の決定方法と就業規則の変更
退職日の決定方法
企業では、満65歳に達した月の末日を退職日とする運用が一般的です。例えば、誕生日が6月15日の人はその年の6月30日が退職日になります。月単位で整理することで給与計算や社会保険手続きが分かりやすくなります。
具体例
- 誕生日:6月15日 → 退職日:6月30日
- 誕生日:6月30日 → 退職日:6月30日
中途入社であっても原則は同様に月末を退職日とすることが多いです。
就業規則の変更手順
就業規則を変更する際は、会社内の所定の手続きに沿って改定します。労働者代表の意見聴取や届出が必要な場合があります。改定内容は明確な文言で記載してください。
周知の方法
就業規則変更後は法的に周知が必要です。書面交付や社内掲示、社内メールでの周知、就業規則の配布やイントラ掲載などで確実に伝えてください。個別の説明会や相談窓口を設けると理解が深まります。
実務上の注意点
退職日決定に伴う給与計算、年金手続きの案内、有給休暇の精算などを事前に整えましょう。再雇用制度を用意する場合は条件を明確にしておくとトラブルを避けられます。従業員に寄り添った説明を心がけてください。


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