個人事業主のための就業規則作成と法律知識完全ガイド

目次

第1章: はじめに

本調査の目的

本調査は、個人事業主が従業員を雇用するときに、就業規則の作成義務があるか、どのような手続きや注意点が必要かを分かりやすく示すことを目的とします。具体例を交え、労働基準法の適用範囲や判断ポイント、就業規則に盛り込むべき項目、作成の手順と周知方法までを網羅します。

対象となる読者

個人事業主、これから雇用を考えている方、経営初心者や人事担当者向けに書いています。法律用語に不慣れな方でも理解できるよう、専門用語は最小限にし具体例で補足します。

本書の構成と使い方

全7章で構成します。第2章以降で法的義務や判断基準、第5章で就業規則の具体的な記載例、第6章で作成の手順と従業員への周知方法を説明します。たとえば「アルバイトを2人雇う場合」「家族従業員を雇う場合」など身近なケースで判断のヒントを示します。

注意事項

本稿は一般的な解説です。具体的な判断や作成は、状況に応じて専門家に相談することをお勧めします。

就業規則作成の法律上の義務

概要

個人事業主が従業員を雇う場合、常時10人以上の事業所では就業規則の作成と労働基準監督署への届出が法律で義務付けられています(労働基準法第89条)。違反すると30万円以下の罰金が科される可能性があります。10人未満の事業所は作成・届出は義務ではありませんが、整備が望まれます。

常時10人以上の事業所の義務

就業規則は労働条件の基本です。賃金、労働時間、休暇、服務規律、懲戒などの項目を明確にして作成し、所轄の労基署へ届け出ます。変更があれば届出が必要です。

違反時の注意点

届出を怠ると罰則が適用されます。また、書面でのルールがないと労使間の争いで不利になることがあります。

10人未満の事業所への助言

義務はなくても、書面でルールを定めておくとトラブルを防げます。例えば残業や休暇の取り扱いを明文化しておけば誤解が減ります。社内でわかりやすく示し、雇用時に説明する習慣をつけると安心です。

実務上のポイント

就業規則は従業員が閲覧できるようにし、改定時は周知を行ってください。不安があれば社会保険労務士など専門家に相談するとスムーズです。

個人事業主と労働基準法の適用関係

概要

原則として個人事業主(フリーランスや請負業者)には労働基準法は適用されません。個人事業主は請負や委任の契約で仕事を請け負うため、労働者に対する法律の保護対象に入らないからです。

原則:契約の形式ではなく実態が重要

書面で「業務委託」や「請負」としていても、実際の働き方が会社の従業員と変わらない場合は労働基準法が適用される可能性があります。大切なのは契約名よりも、実際に指揮命令を受けているか、勤務時間や場所が固定されているかといった実態です。

判断に役立つ具体的なポイント(例示)

  • 指揮命令関係:発注者が細かく作業方法や時間を指示しているか。
  • 勤務時間・場所:決まった時間に指定場所で働いているか。
  • 報酬の決め方:時間単位や月給に近い支払いか、成果報酬か。
  • 業務用設備:自分で道具や機材を用意しているか。
  • 代替の可否:他人を立てて代わりに行えるか。

例1:会社が時間割を決め、パソコンは会社支給で細かく指示がある場合は社員に近くなる可能性が高いです。例2:自分の機材で納期だけ指示され、作業方法は自由なら個人事業主として扱われやすいです。

実務上の注意点

判断は個別具体的です。トラブルを避けるため、発注側は契約書に実態を反映させ、働き方や指示の程度を明確にしてください。必要な場合は専門家に相談すると安心です。

労働基準法適用判断の6つのポイント

1. 仕事の依頼に対する諾否の自由

依頼を自由に断れるかで分かります。例えば、フリーランスは案件を選べます。対して従業員は基本的に指示を受ければ従います。

2. 指揮監督の有無

誰が業務の内容や進め方を決めるかを見ます。会社の指示で細かく手順や報告を求められる場合は従属的です。

3. 勤務場所・勤務時間の拘束性

出勤時間や作業場所が固定されていると労働者性が強まります。自宅や自由な時間で仕事できると事業者性が高くなります。

4. 報酬の性質(労務対償性)

時給・日給のように労働時間に応じる報酬は労働者に近い傾向です。一方で成果報酬や請負料は独立性を示します。ただし報酬だけで判断しません。

5. 事業者性の有無

自分で設備を持つ、複数の顧客を持つ、広告を出すなど事業として行っているかを見ます。設備投資や損益の負担があると事業者性が高いです。

6. 専属性の程度

同一の依頼主に専念しているかを確認します。専属度が高いと労働者とみなされやすいです。

これらは単独ではなく総合的に判断します。自由度が低い点が多いほど労働基準法の適用を受ける可能性が高くなります。

就業規則に記載すべき内容

絶対的必要記載事項(労基法第89条)

  • 始業・終業時刻:具体的に。例)始業9:00、終業18:00、休憩12:00–13:00
  • 休憩・休日・休暇:法定休日、年次有給の取得方法や条件
  • 賃金:計算方法(基本給・手当・超過勤務の計算)、支払い方法(銀行振込等)、支払日(例:毎月25日)、昇給の基準
  • 退職・解雇:退職の手続き、解雇事由、予告・手当の扱い

相対的必要記載事項(例示)

  • 退職金・賞与:支給条件や計算方法(例:勤続1年で○%)
  • 自己負担費用:制服・工具等の負担ルール
  • 安全衛生:健康診断の実施、職場の安全対策
  • 表彰・懲戒:表彰基準、懲戒の種類と手続き
  • 災害補償:業務災害時の対応と支援

書き方のコツ

  • 数値や条件を明確に記載します。例外や申請方法も具体的に示すと運用が楽になります。
  • 厚生労働省のモデル就業規則を参考にし、業種や社内ルールに合わせて調整してください。

就業規則の作成ステップと周知方法

ステップ1:目的と範囲を明確にする

まず、就業規則の目的(労働条件の明確化や職場秩序の維持)と適用範囲(全従業員、契約社員、パート等)を決めます。具体例:パートは一部条項を除く、など。

ステップ2:モデルを参考にドラフト作成する

厚生労働省のモデルや専門家の雛形を参考に、会社の実情に合わせた草案を作ります。時間外や休暇、懲戒など主要項目は具体的に書きます。

ステップ3:従業員への説明と意見聴取

草案は従業員に説明し、意見を聴取します。具体的には説明会を開く、意見書を回収するなどです。従業員の理解が得られると運用がスムーズになります。

ステップ4:必要な修正と合意形成

意見を踏まえて修正します。不利益な変更がある場合は慎重に手続きを取り、説明記録や合意メモを残すと安心です。

ステップ5:書面化と届出

完成したら書面で作成し、従業員に配布・掲示します。従業員が常時10人以上なら労働基準監督署へ届出が必要です。

ステップ6:周知方法(実用例)

  • 全員配布(紙またはPDF)
  • 事業所内の見やすい場所に掲示(入口や休憩室)
  • 入社時の説明会で配布・説明
  • 社内イントラやメールで周知
    具体例:休憩室の掲示と新人研修での説明を組み合わせると浸透しやすいです。

ステップ7:運用と定期見直し

運用中の問題点は記録し、半年〜年に一度は見直します。法改正や働き方の変化があれば速やかに改訂し、再周知します。

従業員10人未満の場合の判断と専門家活用

従業員が10人未満の事業所は、就業規則の作成が法律上の義務ではありません。とはいえ、社内ルールを明確にするとトラブルを防げます。まずは簡単なルールを文書化することをおすすめします。具体例:

  • 労働時間・休憩・休日の基準(例:始業9時、終業17時、休憩1時間)
  • 有給休暇の申請方法と時期(例:希望日の2週間前に申請)
  • 懲戒や解雇の基本方針(軽微な場合の対応例)

判断のポイント:雇用形態の多様さ、残業や深夜労働の頻度、将来の増員予定、社会保険加入状況などがあれば早めに整備しましょう。例えばパートが多く就業時間がバラバラなら、就業規則で給与や休暇の扱いを明記すると誤解を避けられます。

社労士に相談するメリット:法令に合った文言で作成できる、残業代や労働時間の算定でミスを防げる、労基署対応や助成金申請の助言を受けられます。相談のタイミングは、ルールが複雑なとき、トラブルが発生したとき、または従業員が増える予定のときが目安です。

相談準備のポイント:現行の雇用契約書、給与体系、労働時間の実態、従業員名簿、想定するルール案を用意するとスムーズです。費用は規模や内容で変わりますが、簡易な作成なら数万円〜数十万円が目安です。

小規模でも最低限のルールを整え、必要に応じて専門家を活用すると安心できます。

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