労働基準法36条の条文を徹底解説!36協定の重要ポイント

目次

はじめに

本章の目的

本章では、本資料全体の目的と読み方を分かりやすく説明します。労働基準法第36条(通称「36協定」)について、条文の意味や実務での使い方、違反したときの影響まで順を追って学べるように設計しています。

なぜ重要か

36協定は、事業場で時間外や休日に働いてもらうための労使の合意です。合意がないと、会社が残業を命じることができません。従業員の働き方と会社の運営の両方に直接関わるため、正しく理解することが大切です。例えば、繁忙期に臨時で長時間労働が必要な場合でも、36協定がなければ法的な問題になります。

本資料の構成と読み方

本資料は全13章で構成します。基本的な定義から、特別条項や違反時の罰則、実際の事例まで順に解説します。初めての方は第2章から順に読むと理解しやすいです。実務担当者は目的の章を先に参照してもかまいません。

注意点

専門用語はできるだけ避け、具体例を交えて説明します。実務での判断はケースごとに異なるため、必要に応じて専門家に相談してください。

労働基準法第36条の基本定義

36協定とは

労働基準法第36条に基づく「36協定(サブロク協定)」は、使用者が時間外労働や休日労働を労働者に求める場合に、あらかじめ労使で合意して書面にする取り決めです。口約束では効力がなく、書面での取り交わしが必要です。

誰と結ぶか

原則として、労働組合がある場合は組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者(選出された代表者)と結びます。代表者は労働者の意見を反映する立場であることが望ましいです。

書面と届出

協定は書面で作成し、必要に応じて労働基準監督署へ届け出ます。届出があると、時間外や休日労働を命じる法的根拠が明確になります。

協定で決める主な内容

・時間外・休日の有無と範囲
・対象となる期間(例:1年)
・手続きや割増賃金の取り扱い

具体例

小売店が繁忙期に閉店時間を延ばす場合、事前に36協定を結んでいれば労働者に残業を頼めます。協定がなければ残業を強制できず、違法になります。

36協定の法的背景と必要性

概要

労働基準法第36条は、法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超える時間外労働や休日労働を行わせる際に、労使で協定を結び、監督署へ届け出ることを義務づけます。この協定を一般に「36協定」と呼びます。

法的根拠

使用者が法定を超えて労働させる場合、36条に基づく協定がないとその時間外労働は原則無効であり、労働基準法違反になります。協定は労働組合か、労働者の過半数を代表する者と締結します。

必要性(労働者保護の観点)

目的は過重労働の抑制と健康確保です。協定があることで時間外労働の範囲や条件を明確にし、割増賃金や上限の設定といった保護策を確保できます。

協定の相手と届出

締結相手は労働組合か過半数代表者で、協定書を労働基準監督署に届け出ます。提出しないまま時間外労働をさせると違法となり得ます。

具体例

・繁忙期に工場で一時的に残業を増やす場合は36協定で対応する。
・突発的な対応で休日出勤が必要なときも協定の範囲内で行う。

注意点

協定があっても際限なく働かせて良いわけではありません。協定の内容や上限は次章以降で詳述します。

36協定締結による労働時間の延長可能性と上限規制

概要

36協定(労使協定)を結ぶと、法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超える時間外労働や、法定休日の労働を行うことができます。ただし、無制限ではなく法律で上限が定められています。

上限規制(原則)

通常の場合、残業時間の上限は以下です。
– 月45時間以内
– 年360時間以内
具体例:ある月に残業60時間は原則認められません。年合計が360時間を超えないよう管理します。

1年単位の変形労働時間制の場合

1年単位の変形労働時間制を採用している場合、上限はより厳しくなります。
– 月42時間以内
– 年320時間以内
例えば、繁忙期がある職場であっても、年間合計が320時間を超えないよう配慮が必要です。

留意点

  • 特別な事情がある場合、特別条項で一時的に上限を超えることもありますが、別章で詳述します。
  • 企業は労働者の健康を守り、時間管理を徹底する義務があります。違反すると行政の指導や罰則があり得ます。

(なお、36協定そのものの締結手続きや特別条項の詳細は別章で扱います。)

時間外労働の上限規制の詳細

概要

2019年の働き方改革関連法で、36協定があっても時間外労働には明確な上限が導入されました。主な上限は次の三つです。年720時間以内、単月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間以内です。さらに、月45時間を超えるのは年間6ヵ月までという制限があります。

各上限の中身と計算例

  • 年720時間:1年間で合計して720時間を超えられません。例)毎月60時間の時間外労働が12ヵ月続くと720時間となります。
  • 月100時間未満:単月で100時間以上に達すると違反です。深夜・休日を含めた合計で判断します。
  • 複数月平均80時間:対象は直近2〜6ヵ月の平均です。6ヵ月で計算するなら合計480時間以下が目安。例)6ヵ月の合計が400時間であれば平均約66.7時間で合致します。

月45時間超の制限

原則として月の時間外は45時間以内が望ましいです。特別条項で超えることが認められても、その超過は年6ヵ月までに限られます。企業は対象月や理由を明確にし、労使で協議して決めます。

補足(適用のポイント)

時間外には法定労働時間を超える労働と法定休日の労働が含まれます。36協定を結んだだけでは上限を超えられません。上記いずれかに当てはまる場合、法律違反となる可能性が高いです。

36協定の特別条項について

概要

特別条項は、繁忙期や臨時の事情で通常の時間外限度(例:月45時間・年360時間)を超えて時間外労働が必要な場合に、あらかじめ協定で認める仕組みです。無制限ではなく、あくまで一時的な対応に限られます。

適用される場面

・季節的に仕事が集中する時期
・臨時の大口受注や設備故障など緊急時
これらの状況を想定して、いつ・どの程度の超過を認めるかを協定に記載します。

設定のポイント

・具体的な理由や期間を明確にすること
・対象となる従業員の範囲を明示すること
・超過時間の上限を定め、運用ルールを整えること

労働者保護の観点

超過を認める場合でも、健康管理や休息の確保が重要です。代休や割増賃金などの対応を明確にし、長時間労働が常態化しないようにします。

手続きと記録

協定は労使で合意し、必要な手続きを行って書面で残します。運用した際は勤務時間の記録を保存し、見直しを定期的に行ってください。

注意点

特別条項は臨時的な措置です。運用が長期化すると本来の趣旨を失い、労働者の健康や法的問題を招きます。事前に上限や期間、代替措置をきちんと定めてください。

36協定の対象者と適用範囲

概要

36協定は原則として、その事業場で働く全ての労働者に適用します。正社員だけでなく、パート・アルバイト、契約社員、派遣社員なども対象です。労働時間を延長する場合は、対象者を明確にしておく必要があります。

具体例で理解する

  • 正社員:もちろん対象です。繁忙期に残業が発生する場合は協定による延長が前提になります。
  • パート・アルバイト:短時間勤務でも、所定労働時間を超えて働く可能性があれば対象です。例えば急なシフト延長で残業が生じる場面が該当します。
  • 契約社員・派遣社員:契約内容や実際の勤務形態により対象になります。派遣社員は雇用元(派遣会社)と勤務地での実務が絡むため、取り扱いに注意が必要です。

除外できる場合

事業主が非正規社員に時間外労働をさせないと明確に決めている場合は、協定に記載する対象人数から除外できます。たとえば“残業禁止の契約”を結び、実務でも例外なく残業をさせない運用がある場合です。ただし、口約束だけでは不十分で、書面や就業規則で明確にしておくほうが安全です。

適用範囲を決める際の注意点

  • 対象外とした労働者に実際に残業をさせると、協定違反になります。
  • 複数の事業場がある場合は、各事業場ごとに適用範囲を確認してください。就業規則や雇用契約と整合させることが重要です。
  • 不明点は労働基準監督署に相談すると実務的な助言を得られます。

管理監督者の取扱い

定義と意義

労働基準法上の「管理監督者」とは、経営者と一体的な立場で労働時間の裁量や人事・労務の実質的な権限を持つ者を指します。店長や責任者という職名でも、実態が該当しなければ管理監督者とは認められません。

判断のポイント

主に次の点で判断します。
– 勤務時間の自由度(始業・終業を自分で決められるか)
– 人事・異動・評価・採用・懲戒に関する実質的権限の有無
– 役割に見合う給与水準か
– 経営会議への参加や経営判断に関与しているか
これらを総合して実態で判断します。

36協定と割増賃金の関係

管理監督者と認められれば、時間外労働に対する割増賃金の支払い義務は課されません。逆に管理監督者と認められない場合、36協定を締結していない状態で時間外労働をさせれば違法となり、割増賃金の支払いも必要です。

実務上の注意点

職務名だけで判断せず、職務権限や実際の勤務状況を文書化してください。争いになったときの証拠になります。判断が難しい場合は労働基準監督署や労務専門家に相談することをお勧めします。

具体例

  • 店長A:シフト調整や採用権限がなく、始業終業も店長の裁量が小さい→管理監督者に該当せず、36協定と割増賃金が必要。
  • 課長B:採用・懲戒の決定権があり経営会議に参加する→管理監督者と認められる可能性が高い。

36協定を締結しない場合の違反と影響

36協定を締結しないとは

「36協定」とは、会社が法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超えて労働させるために労働者代表と結ぶ協定です。これを結び、労基署に届け出ないまま時間外・休日労働をさせることは違法です。

行政・刑事の影響

労働基準法違反となり、労働基準監督署からの是正勧告や改善命令を受けます。悪質な場合は罰金や書類送検など刑事処分の対象になります。

労働者側の影響と救済

違法な時間外労働は無効となり得ます。未払残業代を請求でき、働く義務を拒否する権利もあります。具体例:36協定がないのに月45時間残業を命じられた場合、未払分の賃金請求や労基署への通報が可能です。

企業側のリスク

金銭的負担(未払残業代+割増賃金)、行政処分、企業イメージの損失が生じます。記録隠蔽や虚偽の申告が発覚すると更に重い処分になります。

取るべき行動(従業員向け)

  • 勤務時間や指示の記録を残す
  • まずは社内で相談し改善を求める
  • 労基署・労働組合・弁護士へ相談する

違法な長時間労働は個人の健康や生活を脅かします。早めに対応することが大切です。

36協定違反となるケース

概要

36協定違反とは、労使で定めた協定に反する行為や、協定自体の手続きが不備な場合に生じます。以下に代表的なケースと具体例を挙げます。

ケース1:協定未締結で残業命令

協定を結んでいないのに時間外労働を命じると違反になります。
例:会社が従業員に月末の繁忙期に残業を命じたが、36協定を締結していなかった。

ケース2:協定で定めた上限を超える労働

協定で定めた時間や特別条項の限度を超えて働かせると違反です。
例:月の残業時間が協定で45時間までと定められているのに60時間働かせた。

ケース3:手続きの不備(労働者代表の選出など)

労働者代表の選出が適正でない、署名がない等は無効となります。無効な協定に基づく命令は違反です。
例:経営側が指名した人物を「労働者代表」として署名させた。

ケース4:適用範囲の誤り

協定の対象とする労働者を正しく定めていない場合に問題となります。
例:労働時間規定の異なる管理監督者や法的に除外される者を誤って協定対象に含めた。

ケース5:書面保存・周知義務の不履行

協定の写しを職場に備え付けない、従業員に周知しないと違反になります。
例:締結後に協定書を社内に掲示せず、従業員が内容を確認できない。

これらはいずれも雇用主の責任になります。疑問がある場合は社内の総務担当や社労士、労働基準監督署に相談してください。

36協定違反時の罰則

概要

36協定(労働基準法第36条)に違反すると、刑事罰が科される可能性があります。代表的な罰則は「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」です。上限時間を超える時間外労働も同様に処罰の対象になります。

誰が対象になるか

事業主が主な対象です。法人の場合は代表者や管理責任者が処罰されることがあります。労働時間管理を怠った結果、違反が発生すれば個人責任が問われます。

罰則が適用される場面(具体例)

  • 36協定を締結せずに時間外労働を命じた。
  • 協定の範囲を超えて継続的に残業をさせた。
  • 書類を偽造したり、労働者の実態を隠したりした場合。

事業主が取るべき対策

  • 正しい36協定を労使で締結し、所轄の労働基準監督署に届出する。
  • 勤怠を正確に記録し、上限を超えない運用を行う。
  • 問題があれば労基署の指導に従い早めに是正する。

早めの対応で刑事処分を避けられることが多いので、日頃からの管理と記録が重要です。

実際の違反事例

背景

電子機器メーカーで、特別条項付きの36協定(時間外労働の延長を認める協定)を締結していました。特別条項では月60時間までの延長を想定していましたが、現場の繁忙で実態が追いつきませんでした。

発生した状況

現場では従業員6名が長時間の残業を続け、ある月には1人あたり106時間の時間外労働が発生しました。深夜や休日の出勤が増え、十分な休息が取れない状態が続きました。結果として、過労による体調不良を訴える社員も出ました。

法的問題点と対応

特別条項の上限(月60時間)を超えたため、時間外労働は違法となります。会社は労働基準監督署により調査を受け、関係書類が整わない部分や長時間労働の是正が不十分と判断され、従業員6名について書類送検されるに至りました。

現場で見られた具体例

  • 深夜までの設計作業が連日続いた
  • 休日出勤が常態化していた
  • 交代制の調整が不十分で休息が取れなかった

教訓と取るべき対策

  • 労働時間の正確な記録を行い、上限を超える前に是正する
  • 繁忙時の代替手段(人員調整、外部委託)を用意する
  • 健康状態の把握と早期対応を徹底する
    これらを実行することで、同様の違反を未然に防げます。

行政指導と刑事罰の流れ

概要

労働基準監督署が問題を見つけると、まず行政指導で改善を求めます。企業が指導に従わない場合、再調査のうえ刑事処分につながる可能性があります。公訴されると「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されることがあります。

一般的な流れ

  • 発見・立入検査:監督署が事業場を調査します。
  • 行政指導:口頭や文書で是正を求め、報告を求めることがあります。
  • 改善の確認:提出された改善計画や報告を点検します。
  • 再調査:改善が不十分な場合、再度調査します。
  • 刑事告発:重大・継続的な違反があれば告発され、検察が判断します。
  • 公訴・裁判:公訴され有罪となれば罰則が科されます。

具体例

長時間の残業が続き36協定が未締結、または労働時間の記録を故意に改ざんした場合、行政指導後に告発されることがあります。

実務上の注意点

  • 指導には迅速に対応し、改善の証拠を残してください。
  • 是正計画や改善報告を丁寧に作成してください。
  • 不明点は労基署や労務の専門家に相談してください。

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