はじめに
本資料の目的
本資料は、退職日と労働基準法に関する調査結果を分かりやすくまとめたものです。退職に伴う法的ルールや、無期・有期雇用における取り扱い、退職日の決定権、就業規則との関係、退職時の注意点などを整理しています。
想定する読者
- 退職を検討している労働者
- 会社の人事・総務担当者
- 退職手続きについて知りたい方
具体例を交え、専門用語を最小限にして解説します。
本資料の使い方
各章で実務上よくある疑問に答える形式で説明します。法律の解釈に関わる部分は基本的なルールを示しますが、個別の事情で判断が分かれる場合があります。その際は、労働組合や労働局、弁護士など専門家に相談することを推奨します。
章構成(全10章)
第1章: はじめに
第2章: 退職に関する基本的な法律体系
第3章: 無期雇用(正社員など)の退職ルール
第4章: 有期雇用(契約社員など)の退職ルール
第5章: 例外的な即日退職が認められるケース
第6章: 退職日と最終出勤日の区別
第7章: 就業規則と法律の関係
第8章: 退職時の注意すべき行為
第9章: 退職日決定の権利
第10章: 退職手続き後の手続き
各章は実務で役立つポイントと注意点を中心に記載します。
退職に関する基本的な法律体系
概要
退職に関する基本的なルールは労働基準法ではなく民法に基づいて判断されます。労働基準法は賃金や労働時間などを定めますが、退職の具体的定義や申し出期間に関する直接の規定はありません。多くの誤解が生じやすい点です。
民法の考え方(簡単に)
民法では雇用契約も契約の一つとして扱い、当事者は契約を解除できます。原則として相当の期間を置いて意思表示すれば退職できます。実務上は「申し出から2週間」という慣行が広く用いられますが、これは法律の明文ではなく実務上の運用です。
労基法との違い
労働基準法は労働条件の最低基準を定めますが、退職手続きの具体的な期間や意思表示の方法は定めていません。したがって退職手続きでは民法や雇用契約、就業規則が重視されます。
実務上のポイント
- まず雇用契約書や就業規則を確認してください。
- 口頭でも退職の意思表示は効力を持ちますが、後のトラブルを避けるため書面で通知し、控えを残してください。
- 会社側の事情や交渉で退職日が変わることがあります。相手方の重大な契約違反(例:長期の未払い賃金)がある場合は即時の退職が認められる場合があります。
具体例
- 正社員で契約に特段の定めがない場合:慣行により2週間程度の予告で退職可能とされることが多いです。
- 契約書に1か月前予告とある場合:契約の定めに従います。
退職の手続きは法律と職場のルールの両方を確認して進めることが大切です。
無期雇用(正社員など)の退職ルール
基本ルール
民法第627条により、雇用期間の定めがない(無期雇用)の従業員は、2週間前に口頭または文書で申し出れば、会社の同意がなくても退職できます。退職理由は問われず、会社はこれを拒否できません。就業規則で1か月前の申し出を求めていても、民法の2週間が優先します。
申し出の方法と日付の数え方
口頭でも有効ですが、トラブルを避けるため書面で出すことをおすすめします。書面には提出日と退職希望日を明記し、控えを残してください。例:4月1日に申し出れば最短で4月15日が退職日になります。
会社側の対応
会社は退職を拒めませんが、退職日までの勤務や引継ぎを求めることがあります。双方が合意すれば退職日を延ばすことも可能です。会社が就業規則の長い期間を理由に退職を止める場合は、民法の規定を根拠に説明を求めてください。
実務上の注意点
・書面で提出し控えを残す
・有給休暇や引継ぎ、貸与物の返却を確認する
・最終給与や社会保険の手続きについて人事と打ち合わせする
・即日退職を考える場合は、第5章で例外を確認してください。
有期雇用(契約社員など)の退職ルール
概要
有期雇用契約では、契約期間を前提に雇用します。原則として契約期間の途中で勝手に退職できません。ただし、以下の例外や手続きがあります。
期間が1年を超える場合
契約期間が1年を超えると、1年経過後はいつでも退職できます。例えば、2年契約なら1年経過後に退職を申し出られます。
1年以内の契約の場合
契約期間が1年以内だと、原則として期間満了まで働く必要があります。やむを得ない事由(病気や家庭の事情、重大な労働条件の違反など)がある場合に限り、途中で退職できる可能性があります。具体的な事情は会社と相談し、理由を文書で残すと安心です。
手続きと実務上の注意
- 就業規則や雇用契約書で退職手続きの方法を確認してください。\
- 退職の意思はできるだけ早く口頭と書面で伝え、退職日を調整します。\
- 会社側の同意が必要な場合は、合意内容を文書で残しましょう。\
- 理由がやむを得ない場合は、証拠(診断書や事情を示す書類)を準備すると対応がスムーズです。
相談先
会社の人事や労務担当、産業医、外部の労働相談窓口に相談してください。必要なら第三者に相談して記録を残すと安心です。
例外的な即日退職が認められるケース
概要
採用時に示された労働条件と実際の労働内容が著しく異なる場合、労働者は退職の予告期間なしに雇用契約を解除できます。特に安全や健康に直結する問題、賃金未払い、重大なハラスメントなどは即時に会社を離れても正当化されやすいです。
具体例
- 給与が約束と違い、支払いが滞る・大幅に下回る
- 採用時の職種と全く異なる業務を強要される
- 勤務時間が大幅に延長され、説明がない
- 職場の安全対策が欠如し危険がある
- 深刻なパワハラ・セクハラが継続する
実際の対応手順
- 証拠を保存する(雇用契約書、求人票、メール、タイムカード、録音など)。
- 可能ならまず口頭・書面で是正を求める。緊急性が高ければ即日退職を選べます。文書で退職日と理由を明記すると後の争いを避けやすいです。内容証明郵便を使うと証拠になります。
- 退職後は未払い賃金や慰謝料の請求を検討し、労働基準監督署や労働相談窓口、弁護士に相談してください。
注意点
即日退職は認められる場合がある一方で、会社側と争いになることもあります。感情的に行動せず、証拠を整えて冷静に手続きを進めることが重要です。
退職日と最終出勤日の区別
定義
- 退職日:雇用契約が正式に終了する日です。給与や社会保険の手続きで基準になります。
- 最終出勤日:実際に職場に出勤する最後の日です。退職日より前になることがあります。
実務上の違い
最終出勤日の後は、有給休暇消化や欠勤として扱われる期間が続きます。給与は退職日に合わせて計算されるため、最終出勤日から退職日までの扱いを会社と確認してください。社会保険や雇用保険の資格喪失日は退職日で決まることが多いです。
具体例
例)3月末を退職日とするが、引き継ぎのため最終出勤は3月20日。3月21日以降は有給消化にして給料は通常どおり支払われる、という運用が多く見られます。
会社への確認事項
- 退職日と最終出勤日のどちらを書類に記載するか
- 有給消化の承認方法と給与計算の扱い
- 健康保険・年金・雇用保険の資格喪失日
注意点
- 最終出勤日と退職日は書類上で異なる場合があります。必ず書面やメールで確認してください。
- 有給消化が認められない場合は欠勤扱いになることがあるため、早めに調整しましょう。
就業規則と法律の関係
1. 法律上の原則
民法では「退職の意思表示は通常2週間前にすれば有効」と定められています(簡潔に言うと“2週間ルール”)。企業の就業規則で長めの申告期間が書かれていても、法的な最低基準はこの民法が優先します。
2. 就業規則に長い期間がある場合
就業規則で1か月や3か月など長い申告期間を求めることがあります。法的には“退職の権利を完全に奪うことはできない”ため、会社が一方的に退職を阻止することはできません。しかし、長めの期間を定めることで引き継ぎや業務の調整が期待されます。
3. 実務的な扱いと注意点
会社側は急な退職で生じた損害を請求することが理論上あり得ます。したがって、円満退社を目指すなら就業規則どおりに告知するか、事前に上司と相談して調整する方が安全です。
4. 具体的な対処例
例:就業規則が1か月なら、まず1か月前に退職届を出し、短縮したい場合は理由を伝えて合意を得る。合意が得られれば問題なく短縮できます。合意が得られない場合でも民法の2週間で退職可能だと理解してください。
退職時の注意すべき行為
違法となる代表的な行為
退職時に次のような行為を行うと、違法や契約違反になります。
– 虚偽の報告書や診断書を作成する(例:病気を偽る書類)
– 重要データや顧客名簿を削除・改ざんする
– 他の従業員を退職に誘導する(組織的な引き抜き)
– 機密情報や業務ノウハウを持ち出す
– 出勤管理やログを改ざんする
具体的なリスク
これらは損害賠償請求や差止請求の対象になります。盗用や不正アクセスに該当すれば刑事責任も問われます。会社側が被った損害を証明すれば、高額な賠償を命じられる可能性があります。
退職時にすべき安全な対応
- 会社から貸与された物品やデータは速やかに返却する
- 自分の私物と会社の情報を明確に分ける
- 退職理由や日程は書面でやり取りする
- 会社側に誤った要求をされたら、証拠を保存し相談する(労働基準監督署や弁護士)
トラブルが起きたときの対応
会社から損害賠償請求を受けたら、冷静に対応し、証拠を集めて専門家に相談してください。自分で証拠を破壊すると逆に不利になります。
以上を守れば、退職後の不要なトラブルを避けやすくなります。
退職日決定の権利
1. 基本的考え方
退職日を決める主導権は基本的に労働者にあります。退職の意思表示は労働者の権利で、会社が一方的に日付を押し付けるのは原則として認められません。ただし、法律に「この日までに退職しなければならない」といった明文があるわけではないため、実務では会社と労働者の合意で決めることが大切です。
2. 実務上の決め方
多くの職場では、契約書や就業規則に「退職の申し入れは○日前」と定めています。まずは自分の契約や就業規則を確認し、会社と話し合って具体的な最終出勤日と手続き日を決めます。口頭より書面で残すと後々の誤解を防げます。
3. 交渉のポイント
- 引継ぎの期間や業務の整理日を提示する
- 有給休暇の消化や最終給与の支払日を確認する
- どうしても退職日で対立する場合は譲歩案(短期延長や有給消化)を示す
4. 決まらないときの対応
話し合いで合意できない場合は、労働相談窓口や労働組合、弁護士に相談してください。調停や行政の仲介を利用して解決することも可能です。
5. 具体例
例: 退職を30日後に申し出たが会社が引継ぎを理由に60日後を希望する場合、双方で妥協点(例えば45日後、有給で一部消化)を提示して合意を目指します。
退職手続き後の手続き
会社側の手続き
会社は、退職が成立した翌日から10日以内に「離職証明書」と「資格喪失届」を所轄のハローワークへ提出します。これにより雇用保険の手続きが進みます。会社の提出漏れがあると手続きが遅れることがありますので確認が必要です。
退職者が行うべき手続き
- 会社から受け取る書類(離職票など)を確認します。内容に誤りがあれば会社に訂正を求めてください。
- ハローワークで失業給付の申請をする場合、離職票を持参して手続きを行います。
- 健康保険や年金の切替を行います。会社の健康保険をやめた後の加入先(国民健康保険、任意継続被保険者、被扶養者など)を決め、手続きを進めます。
離職票と失業給付の流れ(例)
会社が書類を提出すると、ハローワークから離職票が会社または本人に交付されます。離職票を受け取ったら、ハローワークで求職の申し込みと失業給付の申請を行います。手続きには本人確認書類や印鑑が必要です。
健康保険と年金の切替
退職に伴い資格喪失となるため、速やかに次の加入先を決めてください。保険証の返却や新しい保険証の交付など、窓口での手続きが必要です。
実務上の注意点
- 書類のコピーを自分でも保管しておくと安心です。
- 提出期限や手続き方法は自治体やハローワークで異なる場合があります。分からないことは事前に確認してください。
(この章は退職成立後から公的手続きが完了するまでの主な流れと注意点を簡潔にまとめています。)


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