はじめに
目的
労働基準法24条は、労働者の賃金が確実に支払われるための基本ルールを定めています。本章では、この条文がなぜ重要かをやさしく説明します。日常の給料支払いが公正であることは、働く人の生活の安定につながります。
なぜ重要か
条文は使用者に守るべき賃金支払の原則を示します。これにより未払い・遅配を防ぎ、労働者が安心して働ける環境をつくります。たとえば、毎月決まった日に給料が入らなければ生活設計が難しくなりますが、ルールがあることでそのリスクを減らせます。
賃金支払の「5原則」への導入
24条は賃金の支払い方法やタイミングについての基本を示します。具体的には、全額払い、通貨での支払い、直接労働者への支払い、毎月1回以上の定期的な支払い、といった項目が問題になります。次章以降で、それぞれを具体例を交えてわかりやすく解説します。
本記事の流れ
この連載では、第2章で条文の内容を詳しく、第3章で賃金支払の5原則を具体的に説明します。第4章では例外や実務の取り扱い、第5章で違反した場合の対応を扱います。まずは全体像をつかんでください。
労基法24条の内容
概要
労働基準法24条1項は、賃金の支払い方法と時期についての基本ルールを定めています。賃金は「通貨で」「直接」「労働者に」「全額を」「毎月1回以上」「一定の期日に」支払う必要があります。これは未払いや遅延から労働者を守るための規定です。
主な要件の説明
- 通貨で:現金だけでなく、労働者の銀行口座への振込が一般的に認められます。代価や商品での支払いは原則不可です。
- 直接:会社が労働者本人へ支払うことを意味します。代理人経由や家族払いは例外的です。
- 全額で:給与からの天引きは労働基準法や就業規則に基づく場合に限られます。無断での差引は違法です。
- 毎月1回以上・一定期日:支払日はあらかじめ決め、毎月一定の周期で支払う必要があります。日付が不規則だと要件を満たしません。
実務上の具体例と注意点
- 振込例:月末締め翌月25日払いなど、就業規則で明示します。
- 天引き例:社会保険料や所得税は法的根拠により差し引けますが、借入返済などは労働者の同意が必要です。
- 遅延・未払:支払遅延は労使トラブルの原因になりやすく、記録を残して速やかに対応してください。
以上が24条の基本的な中身と実務上のポイントです。
賃金支払の5原則
はじめに
賃金支払の5原則は、働く人の生活を守るための基本ルールです。ここでは各原則を分かりやすく説明し、具体例や実務上の注意点を添えます。
1 通貨払いの原則
賃金は原則として現金で支払います。現金以外(商品、ポイント、仮想通貨など)で全部支払うことは認められません。例:給与をギフト券で全額支給することはNGです。
2 直接払いの原則
使用者は賃金を従業員本人に直接支払います。代理受領は本人の同意が必要です。例:家族が受け取る場合は本人の委任状が必要です。
3 全額払いの原則
賃金は全額を支払わなければなりません。債務のために一部差し押さえられる場合を除き、無断で天引きしてはいけません。例:会社が一方的に罰金を差し引くのは原則不可です。
4 毎月1回以上払いの原則
賃金は毎月1回以上、定期的に支払う必要があります。日払いや週払も可能ですが、支払頻度が不定だと違反になります。
5 一定期日払いの原則
支払日はあらかじめ決めておき、変更する場合は就業規則等で明示します。例:毎月25日払いと決めておけば、従業員は生活設計が立てやすくなります。
実務上の注意点
就業規則や労使協定に賃金の支払方法・日を明記してください。不正な天引きや不定期な支払いは労基法違反になりますので、給与計算のルールを社内で統一することをおすすめします。
例外と実務上の運用
概要
労基法の原則は現金払いですが、労働者の同意があれば銀行振込などで支払えます。また、賞与や退職金など一部の賃金は「毎月1回以上」や「一定期日払い」の例外として、別の支払時期を定められます。
銀行振込の扱い
銀行振込を行うには労働者の明確な同意が必要です。就業規則や雇用契約、あるいは書面での個別同意で取り決めます。振込手数料負担や振込日をあらかじめ決め、給与明細は書面または電磁的方法で交付します。
賞与・退職金の例外
賞与や退職金は毎月払いの対象外です。そのため支払時期を年数回や退職時などに定めることが可能です。支払条件は就業規則や労使協定で明確にしておくと実務でのトラブルを減らせます。
実務上の注意点
- 支払日や支払方法の変更は事前に周知し、労働者の同意や書面を残します。
- 給与明細には支払額・控除内訳・支払日を記載します。
- 口座変更や休職時の取り扱いは手続きを定め、誤送金を防ぎます。
具体例
月給を毎月25日に銀行振込、賞与は年2回の支給、退職金は退職時一括という運用は一般的です。いずれも事前に取り決め、記録を残すことが重要です。
違反した場合の罰則
概要
労働基準法24条に違反して賃金を適正に支払わないと、監督署からの是正指導や捜査につながります。賃金未払い、無断の天引き、不当な賃金減額などが典型的な違反です。企業は法的責任だけでなく、従業員との信頼も失います。
具体的な罰則
監督署が調査し是正を求めても従わない場合、検察に送致されることがあります。刑事責任としては、労働基準法に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。加えて、未払賃金の支払いや遅延損害金、場合によっては慰謝料請求の対象になります。
実務上の影響
賃金未払いや不当な天引きは労働組合や弁護士への相談を招きやすく、長期化すると裁判や和解に発展します。企業は罰金だけでなく、採用や取引先との信頼低下、従業員の離職増加といった損失を被ります。
企業が取るべき対応
給与計算の仕組みを見直し、給与規程を書面で整備してください。未払いや疑義があれば速やかに支払いと説明を行い、監督署の指導には誠実に対応することが重要です。労務管理に不安がある場合は、社会保険労務士や弁護士に相談してください。
相談先
労働基準監督署、労働相談窓口、弁護士、社会保険労務士などに相談すると具体的な指導や手続きの助言が得られます。必要に応じて早めに外部の専門家を頼るとリスクを抑えられます。


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