はじめに
本調査は、日雇い労働者(短期・単発の労働者)に関する源泉徴収と源泉徴収票の取り扱いを分かりやすくまとめたものです。企業側の支払義務と、労働者側の税務対応の両面から実務上の注意点を整理しています。
目的
- 日雇い労働者の給与に源泉徴収が必要かどうかの判断を助けます。
- 源泉徴収票の発行条件や発行がない場合の対応方法を示します。
対象読者
- 事業主、給与支払担当者
- 日雇い労働をする方、派遣・紹介事業者
本書の使い方
以降の章で、源泉徴収の原則、日雇い労働者の定義、源泉徴収税額表の「丙欄」の適用基準、源泉徴収票の発行義務と発行されない場合の対処法、丙欄適用の意味を順に解説します。具体例を交えて実務で使えるポイントを提供しますので、必要な箇所からお読みください。
日雇い労働者にも源泉徴収は原則必要
概要
日雇いや単発のアルバイトを雇う場合でも、原則として雇用主(支払者)は給与から税金を差し引いて税務署に納める「源泉徴収」を行う必要があります。短期・単発の勤務であっても、支払う金銭が給与に該当すれば源泉徴収の対象です。
なぜ必要か
企業が給与から税を天引きして納めることで、働いた人の税負担が適正に確保されます。日雇いのように支払回数が多くない場合でも、税務処理の観点からは通常の給与と同じ扱いになります。
実務でのポイント
- 支払が「給与」か「請負報酬」かを判断します。雇用関係があり指揮命令や労務提供がある場合は給与となることが多いです。例:イベントのスタッフ、単発の飲食店スタッフなど。
- 給与に該当する場合、支払時に所定の税額を差し引いて納付します。小口の支払いでも原則必要です。
- 源泉徴収をしなかった場合、支払者に納付義務や追徴が生じることがあります。
具体例
・1日だけのイベントスタッフ(日給で支払う):源泉徴収が必要になることが多いです。
・個人で請負契約を結び報酬を受け取る場合:給与でなければ源泉対象にならないことがあります。判断に迷う場合は税理士や税務署に相談してください。
日雇い労働者の定義と源泉徴収の特徴
定義
日雇い労働者とは、雇用期間が原則として2カ月以内の労働者を指します。呼び名は「日雇い」でも、支払方法が日払いでなく月末払いや翌月末払いであっても該当します。
支払方法と雇用期間の注意点
雇用契約の期間が2カ月を超えると通常の給与扱いになります。契約書や就業日数で判断されるため、短期の契約かどうかを確認してください。
源泉徴収の特徴
日雇い労働者の源泉徴収は、月ごとの通常の給与所得者とは異なり、日額に基づいて税額を決めます。給与を支払う側は、日額を基準に源泉税を計算して差し引きます。
計算のイメージ
日当がいくらかで税率や控除の扱いが変わります。例えば日当が1万円なら、日額に応じた税額表により税を算出します。
よくある誤解
日払いでないと日雇いに該当しないという誤解が多いですが、期間が基準です。雇用期間と支払形態を分けて考えてください。
源泉徴収税額表の「丙欄」適用
概要
日雇い労働者の源泉徴収税額は、国税庁の給与所得の源泉徴収税額表(日額表)で計算します。表には甲欄・乙欄・丙欄があり、日雇い労働者には基本的に丙欄を使います。
丙欄とは
丙欄は「扶養控除等(給与所得者)申告書」を提出していない人に適用する区分です。控除の適用がない前提で税額を計算するため、徴収額が多くなりやすい特徴があります。日雇いで1日のみや短期間働く人に、実務上よく当てはまります。
適用条件(日雇いの場合の判断)
- 労働者が扶養控除等申告書を勤務先に提出していない
- 日ごとに支払う給与を計算する場合は日額表を使用
これらが揃えば、丙欄を適用します。
日額表の使い方(簡単な流れ)
- 1日あたりの支払額(交通費を含めるかなどを確認)を決めます。
- 国税庁の「日額表」から該当する金額の行を探します(丙欄)。
- 表に示された税額を徴収します。複数日分なら日ごとに計算して合算します。
実務上の注意点
- 労働者が扶養控除等申告書を提出すれば甲欄が使える場合があり、徴収額は減る可能性があります。
- 日雇いで複数の事業所で働く場合は、それぞれの勤務先での申告状況に応じて区分が変わります。
- 具体的な税額は表の該当欄で確認してください。税額表は国税庁が公開しています。
源泉徴収が発生する給与額の基準
日雇い労働者については、給与が「日額9,300円以上」の場合に源泉徴収が必要になります。ここで大切なのは、比較するのは手取りではなく支給される日額の基本給与であることです。
交通費や通勤手当は給与に含めません。たとえば、日給が9,000円で交通費が500円なら、給与は9,000円とみなされ、源泉徴収は不要です。逆に日給が9,300円で交通費が別途500円なら、基本給与が9,300円ですから源泉徴収の対象になります。
同じ日に複数の現場で働く場合は、合計の基本給与を基準に判断します。日ごとに基準を満たすかどうかを確認し、基準を超えた日の分だけ源泉徴収を行ってください。給与額の計算や判断に迷うときは、支払側(雇い主)が記録を残すことが重要です。
源泉徴収票の発行義務
概要
日雇いや単発の雇用であっても、給与から所得税を源泉徴収した場合は、支払者に源泉徴収票を発行する義務があります。特に、年間で勤務日数が5日以上かつ支払総額が5万円以上になったときは、交付義務が強く、マイナンバーの記載が必要です。
いつ交付するか
原則として、源泉徴収票は年末調整後またはその年の支払いが確定した後に作成し、翌年1月31日までに受給者へ交付します。遅延すると行政上の問題や受給者の手続きに支障が出ます。
記載事項
主な記載項目は次の通りです。支払金額、源泉徴収された税額、支払者・受給者の氏名・住所、必要に応じてマイナンバー。マイナンバーは前述の基準に該当する場合に必須です。
発行が必要な具体例
- 例1:年間で6日働き、合計6万円受け取った場合→必ず交付、マイナンバー記載。
- 例2:単発で1日・1万円を受け取り、その場で源泉徴収が行われた場合→源泉徴収があれば交付が必要。
交付方法と注意点
手渡し、郵送、または受給者の同意を得た電子交付が可能です。受給者からマイナンバーの提供を受ける際は、適切に管理し漏洩防止に努めてください。
給与支払者の義務
給与支払者は、源泉徴収があったすべての受給者に対して源泉徴収票を交付する責任があります。発行漏れや記載不備がないよう、支払い記録を正確に保管してください。
源泉徴収票がもらえない場合の対応
背景
企業が源泉徴収票の交付を拒むのは法的義務違反です。まずは冷静に対応し、証拠を残すことが大切です。
1)まずは会社に請求する
口頭で終わらせず、メールや書面で請求してください。具体例:「〇年分の源泉徴収票の交付をお願いします。交付がない場合は税務署に相談します」など簡潔に伝えます。送付記録が残る方法を使ってください。
2)税務署に相談する
最寄りの税務署に電話か窓口で相談します。給与が支払われているのに源泉徴収や交付がないことを伝えると、税務署が事実確認や会社への指導を行う場合があります。
3)自分で確定申告する
源泉徴収がされていない場合は、労働者本人が確定申告で所得を申告し、必要な税額を納めます。税務署で相談し、申告書の書き方を教わると安心です。
4)用意する書類(例)
- 給与明細や振込記録
- 雇用契約書や業務委託契約書
- 出勤簿や作業報告
これらを持参すると税務署や税理士が手続きしやすくなります。
5)その他の相談窓口
市区町村の税務相談、税理士、労働相談センターも利用できます。自分だけで抱え込まず、証拠をそろえて早めに相談してください。
「丙欄適用」の意味
- 説明
源泉徴収票に「丙欄適用」とあるときは、その給与が税法上の日雇賃金などに該当し、源泉徴収で“丙欄”の税率が使われていることを示します。つまり、扶養控除などを反映せず、手続きが簡略な扱いになります。
- 具体例
1) 日雇いの単発仕事で働き、扶養控除等申告書を提出していない場合
2) アルバイトを掛け持ちしていて、当該雇用先に扶養申告がない場合
- 税負担と対応
丙欄は控除を考慮しないため、給与から多めに税金が差し引かれます。結果として年末に確定申告をすると、過剰に差し引かれた税金が還付される可能性があります。したがって、主な勤務先がある人は、勤務先に扶養控除等申告書を出すと甲欄扱いになり、差し引かれる税額が軽くなります。
- チェックポイント
・源泉徴収票に「丙欄適用」と明記されているか確認する
・扶養申告書を未提出なら提出を検討する
・年末調整で処理されない場合は確定申告で還付を受けられる場合がある
疑問点があれば、どのような働き方か教えてください。具体的にアドバイスします。


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