はじめに
本調査の目的
本調査は、労働基準法第39条に基づく年次有給休暇(以下、有給休暇)の制度を、労働者と事業主の双方に分かりやすく整理することを目的としています。特に付与要件、付与日数、取得ルール、年5日の取得義務化、違反時の罰則を中心に解説します。
誰に向けた資料か
- 会社の人事・総務担当者
- 働く方(正社員・パート・アルバイト等)
- 労働条件の相談先や支援団体
具体例を交えて、実務で使える知識を提供します。
本稿の構成と読み方
各章を順に読めば、基本的なルールから応用的な扱い(パートの取り扱い、時間単位取得、計画年休など)まで理解できます。先に概要だけ知りたい場合は、第2章と第4章をお読みください。
注意点
- 会社の就業規則や労使協定がある場合でも、法令より不利にしてはいけません。具体的な運用で迷ったら、社労士や労働基準監督署に相談してください。
有給休暇とは
概要
有給休暇(年次有給休暇)は、働く人が休むときにも給与を受け取れる制度です。労働基準法第39条で定められた労働者の権利であり、業種や企業規模に関係なく適用されます。
どんな休みか
有給休暇は私用や病気、家族の事情などさまざまな理由で使えます。会社が定める手続きに従って申請すれば、原則として取得できます。休んだ日も通常の賃金が支払われます。
誰が対象か
正社員だけでなく、勤務日数や勤続期間が一定基準を満たす短時間労働者も対象です。具体的な付与条件は第3章で詳しく説明します。
企業の義務
企業は有給休暇を与える義務があります。請求を不当に拒んだり、取得を妨げたりしてはいけません。ルール違反がある場合は労働者側の救済手段があります。
具体例
- 風邪で休んで治療に専念する時に使う
- 子どもの通院や学校行事に参加する時に使う
- 旅行やリフレッシュのために計画的に使う
次章では、有給休暇が付与される要件についてわかりやすく解説します。
有給休暇の付与要件
概要
有給休暇の権利は、次の二つの条件を同時に満たしたときに発生します。
1) 雇入れの日から6か月間、継続して勤務していること
2) その6か月間の全労働日の8割以上出勤していること
どちらか一方だけでは権利は発生しません。両方を満たして初めて付与されます。
継続勤務6か月とは
「雇入れの日」から数えて6か月目です。試用期間中でも同様にカウントします。たとえば4月1日に入社した場合、10月1日に6か月が経過します。
出勤率8割の数え方(イメージ例)
全労働日数とはその期間に企業が通常出勤を予定していた日数です。出勤率は「出勤した日数 ÷ 全労働日数」で計算します。
例:6か月間の全労働日が120日で、実際に出勤した日が96日なら96÷120=0.80で8割に達し、条件を満たします。
注意点
欠勤や遅刻、早退は出勤率に影響します。雇用形態(正社員・パート)にかかわらず、基準は同じで、日数や割増は別に定められます。権利が発生したら、会社に有給休暇の付与を確認してください。
有給休暇の付与日数
概要
労働基準法第39条は、勤続年数に応じて有給休暇を付与することを定めています。入社後6か月経過時点で原則として10日が付与され、勤続が長くなるほど付与日数が増えます。
具体的な付与日数の目安
- 勤続6か月:10日
- 勤続1年6か月:11日
- 勤続2年6か月:12日
- 勤続3年6か月:14日
- 勤続4年6か月:16日
- 勤続5年6か月:18日
- 勤続6年6か月以上:20日
これは法で定める最低日数の目安で、就業規則でより多く設定することは可能です。
パートタイム・短時間労働者の扱い
所定労働日数が週5日に満たない人も、勤続と勤務日数に応じて比例付与されます。例えば週3日勤務の人は、同じ勤続年数の正社員と比べておおむね6割の付与日数になります。具体的な日数は勤務日数と所定労働時間で計算されます。
時間単位での取得
最近は半日や1時間単位で有給を取得できる制度を導入する企業が増えています。就業規則で時間単位取得を認めれば、突発的な通院や家庭の用事に柔軟に対応できます。ただし会社ごとに最低取得単位や利用条件が定められるため、事前に確認してください。
有給休暇の取得ルールと権利
時季指定権(労働者の権利)
労働者は、有給休暇をいつ取得するかを指定する権利があります。急な体調不良や子どもの行事、旅行など、理由は問いません。たとえば、子どもの運動会のために週末の前日に休みを申請することは認められます。
時季変更権(事業者の対応)
事業の正常な運営に支障が出る場合、事業者は時季変更権を行使して休暇の時期を変更できます。ただし、単に都合が悪いというだけでは認められません。変更する際は、具体的な業務理由を示し、できる限り別の日を指定します。例:重要な検査日や繁忙期で代替の人員手配が困難な場合などです。
計画年休の導入(労使協定)
労使で協定を結べば、あらかじめ何日かを計画年休として指定できます。これにより、会社側も従業員側も休暇の調整がしやすくなります。協定では対象者・日数・手続き方法を明確にします。
取得手続きと実務上の注意
申請はできるだけ早めに行い、事業者は速やかに判断・回答してください。口頭でも可能ですが、記録(メールや申請書)を残すと後のトラブルを避けられます。交代要員や業務引継ぎも事前に準備しましょう。
トラブルになった時の対処
時季指定を不当に拒まれたり、無断で変更された場合は、まず社内で話し合い、解決しないときは労働基準監督署や労働組合に相談してください。記録を揃えると相談がスムーズになります。
年5日の有給休暇取得義務化
背景と概要
2019年4月の改正で、年間付与日数が10日以上の労働者に対し、企業は年5日以上の有給休暇を取得させる義務を負いました。目的は休暇取得の促進と労働者の健康確保です。
企業の義務
企業はまず労働者の希望時季を確認します。希望がない、または希望日数が足りない場合は、事業運営に支障のない範囲で企業が時季を指定して取得させます。指定した日にも賃金支払い義務が発生します。
労働者の対応
労働者は取得したい日を申し出てください。申し出があれば企業は原則尊重しますが、業務上の理由で変更を求めることがあります。
特例(産前産後休業等)
産前産後休業など正当な事由がある場合、付与判定や出勤率の算定でその期間を考慮する特例が設けられています。これにより、育休等で出勤できない期間が不利にならないよう配慮します。
具体例
・社員Aは年間付与が10日。自ら2日だけ申請した場合、会社は不足する3日を指定して取得させます。
・産休で長期間不在でも、有給の付与判定に不利とならない場合があります。
運用で不明点があれば、労務担当に相談してください。
労働基準法第39条違反時の罰則
概要
有給休暇の付与や取得を不当に拒む行為は法律違反です。罰則は有給そのものを定める39条ではなく、違反行為に対する規定(第119条・第120条)にあります。
具体的な罰則
- 第119条:有給の付与をしない、取得を妨げるなどの違反は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
- 第120条:年5日の有給取得義務を履行させない場合は、労働者1人につき30万円以下の罰金が科されます。
企業リスクの具体例
従業員が多数いる事業所では罰金が積み重なります。例えば10人分の義務違反があれば最大で300万円の罰金となる可能性があります。罰金だけでなく、刑事責任や行政指導、企業イメージの低下も伴います。
企業が取るべき対策
- 有給の付与・取得の記録を整備する。日付や理由を残すと説明しやすくなります。
- 就業規則や年次有給休暇の運用ルールを明確にする。計画的付与や時季指定の運用を検討してください。
- 管理職へ周知し、取得の妨げとならない業務調整を行う。
- 不明点は労働基準監督署や専門家に相談する。
これらの対策を通じて、罰則リスクを抑え、安全で働きやすい職場づくりを目指してください。


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