はじめに
本記事の目的
本記事は労働基準法第20条(解雇予告)について、基本ルールから例外、解雇予告手当の計算方法、解雇の有効性、違反時の罰則や救済までをわかりやすく解説することを目的とします。専門用語は最小限にし、具体例を交えて説明します。
誰に向けた記事か
従業員、使用者(経営者・人事担当者)、労働問題に関心のある方が対象です。初めて学ぶ方でも理解できるよう平易な表現で進めます。
本記事の構成
第2章から第8章で順を追って説明します。各章は独立して読めるようにしていますので、関心のある項目だけ読むことも可能です。
読み方のポイント
具体的な事例や計算例を重視しています。個別の事情で判断が分かれる場合は、最寄りの労働相談窓口や弁護士にご相談ください。
労働基準法20条の基本概要と目的
趣旨
労働基準法第20条は、会社が労働者を解雇する際の「予告」に関する規定です。原則として30日前に解雇の予告を行うことを定め、労働者の生活安定と再就職準備のための猶予を確保します。急な収入喪失を和らげることが主な目的です。
主な内容(わかりやすく)
- 会社は解雇の少なくとも30日前に予告する必要があります。予告がない場合、30日分の平均賃金を支払う義務が発生します(解雇予告手当)。
- 予告と手当は併用できます。たとえば、15日前に予告して残り15日分を手当で補うことが可能です。
実務上のポイント
- 解雇日時の明示、書面での通知が望ましいです。口頭でも効力はありますが、後のトラブルを避けるため書面にすると安心です。
- 平均賃金の算定方法や特別な事情での例外は別途規定があります。まずは就業規則や労働契約書を確認してください。
具体例
月給30万円の労働者を即日解雇する場合、原則として30日分の平均賃金(約10万円)を解雇予告手当として支払う必要があります。
適用範囲と対象者
第3章では、労働基準法20条が誰に適用されるかを分かりやすく説明します。
対象となる労働者
- 正社員:雇用形態に関わらず、会社が解雇を通知する場合は対象になります。具体例:経営悪化で正社員を解雇する場合。
- 契約社員(有期契約者):契約期間の途中で会社が解雇する場合に適用されます。例:1年契約の途中で解雇された場合。
- パート・アルバイト:短時間や時給労働者でも、雇用の継続が前提であれば対象です。例:シフト制のアルバイトを会社都合で解雇する場合。
適用されない主なケース
- 労働者本人の都合による退職(自己都合退職)は対象外です。例:転職のための退職届を出す場合。
- 契約期間満了による雇止め(契約終了)は原則対象外です。例:期間満了で契約を更新しない場合。
- 短期雇用や単発の臨時労働、明確に短い期間を前提とした雇用は除外されることがあります。試用期間中については契約内容や実態で判断されます。
実務上の判断ポイント
誰が解雇の意思決定をしたか(会社側か労働者側か)をまず確認してください。会社側の解雇であれば20条の適用を検討します。具体的な扱いは個別の事情で変わるため、疑問があるときは労務担当や専門家に相談することをおすすめします。
例外規定と即日解雇が認められる場合
概要
労働基準法20条には、原則として解雇の30日前予告または解雇予告手当が必要とあります。ただし例外があり、天災ややむを得ない事由で事業継続が不可能になった場合、また労働者の重大な規律違反があった場合は予告義務が免除されることがあります。
即日解雇が認められる代表例
- 事業継続が物理的に不可能な場合:地震や洪水で事業所が使用不能になるなど。労働基準監督署長の認定が必要です。
- 労働者に責に帰すべき重大な事由がある場合:横領、重大な暴力行為、長期の無断欠勤など。これらは懲戒的に即日解雇が可能です。
手続きと注意点
会社は事実関係を文書や証拠で明確にし、可能なら事前に労基署に相談します。独断で即日解雇すると無効や損害賠償のリスクが高まります。解雇の理由や証拠は後で争われやすいため、丁寧に記録を残してください。
争いになった場合の立場
労働者が異議を唱えた場合、使用者が解雇の正当性を証明する責任を負います。裁判や労働審判で無効と判断されると、解雇の取り消しや賃金の支払いが命じられることがあります。
解雇予告手当と具体的な計算例
概要
解雇予告を行わず即日解雇する場合、使用者は30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う義務があります。予告日数が30日に満たない場合は、不足分の日数分の手当を支払います。
平均賃金の計算方法
平均賃金=直近3か月間の賃金総額 ÷ その期間の暦日数(通常は90日)
(在職期間が3か月未満の場合は、その在職期間の賃金総額 ÷ 実日数で計算します。)
賃金総額には基本給、各種手当、残業代などが含まれます。
具体的な計算例
例1(固定給)
・月給30万円の場合:30万円×3か月=90万円。90万円÷90日=1万円/日。30日分=30万円。
例2(予告不足)
・30万円の給与で予告10日のみの場合:不足は20日分=1万円×20日=20万円を支払う必要があります。
例3(変動給)
・直近3か月の賃金が28万・32万・30万円なら合計90万円÷90日=1万円/日 → 30日分=30万円。
支払い時期と注意点
解雇時に支払うのが原則です。計算に含める項目や例外は個別に異なる場合があるため、不明な点は労働基準監督署や専門家に相談してください。
解雇の有効性と理由の必要性
労働契約法16条の考え方に基づき、解雇には「合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。単に手続き(解雇予告や解雇手当)を踏んでいても、理由が不当であれば解雇は無効になります。
- 有効と認められやすい例
- 業務上の重大な背信行為(窃盗・横領など)
- 業務命令に従わない重大な違反
-
業績悪化によるやむを得ない整理解雇(代替措置の検討と公正な基準が必要)
-
無効になりやすい例
- 単に「能力不足」とだけ言い、具体的な指導や警告がない場合
- 差別的・報復的な動機による解雇
- 疾病や産前産後休業等、保護される状態を理由とする場合
裁判所は、解雇の必要性、相当性、手続きの適正さ(警告・聴取・書面の記録など)を総合的に判断します。企業側に立証責任があり、具体的な証拠や経緯の記録が重要です。実務上は、事前調査・複数回の注意・改善の機会提示・代替措置の検討を行うことで有効性を高められます。
解雇に心当たりがある場合や不当と思われる場合は、労働相談窓口や弁護士に早めに相談してください。
違反時の罰則・救済措置
刑事罰(罰則)
労働基準法で定めた解雇予告や解雇予告手当の支払い義務を怠ると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。これは経営者や会社が法令を守らない場合の罰則です。
労働者が取れる救済手段
労働者はまず労働基準監督署(労基署)に相談・申告できます。労基署は事実関係を確認し、事業者に対して是正指導や送検(必要時)を行います。併せて、未払い賃金や解雇の無効を求める民事的な請求(裁判や労働審判)も可能です。弁護士や労働組合に相談すると手続きが円滑になります。
申告・相談の際の注意点
申告時は雇用契約書、給与明細、解雇を示す文書やメール、やり取りの記録などを準備してください。早めに行動すると対応がスムーズです。
具体例
例)会社が30日前の解雇予告をせず、解雇予告手当を支払わなかった場合、労基署に申告すると調査のうえ是正命令や罰則の対象になります。同時に労働審判で解雇無効や未払い賃金の支払いを求めることもできます。
関連FAQ・よくある質問
Q:アルバイトやパートでも30日予告は必要?
契約期間の途中で解雇する場合は、正社員でなくても解雇予告(30日)が必要です。契約満了で契約を更新しないときは予告不要です。例:半年契約の途中で雇い主が契約を打ち切ると、30日分の賃金払いや予告が必要になります。
Q:即日解雇された場合はどうすれば?
原則として雇い主は30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払う義務があります。まず書面で解雇理由や支払いを求め、証拠(解雇通知のメールややり取り、タイムカード)を保存してください。支払いがない場合は最寄りの労働基準監督署へ相談し、未払い賃金の請求や指導を依頼できます。場合によっては弁護士に相談して交渉や訴訟を検討します。
Q:解雇予告手当は課税される?
解雇予告手当は賃金扱いになるため、所得税や社会保険料の対象です。支払われるときは通常の給与と同様に源泉徴収されます。実際の控除額は支払方法や金額で変わりますので、給与明細で確認してください。
よくある追加質問
・「退職と解雇の違いは?」:退職は本人の意思、解雇は会社の意思です。扱いが変われば手続きも異なります。
・「証拠が少ないときは?」:可能な限り記録(メール、LINE、出勤記録)を残し、早めに労基署や弁護士に相談してください。


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