労働基準法91条の減給制裁制度の仕組みと注意点を詳しく解説

目次

はじめに

本調査は、労働基準法第91条に定められた「減給」という懲戒処分について、実務で注意すべきルールや制限を分かりやすく整理したものです。本章では本稿の目的、対象読者、全体の構成と読み方を簡潔に説明します。

目的

労使双方が減給の可否や限度を理解し、適切な運用を行えるようにすることを目的とします。条文の趣旨と実務上の判例や運用例を踏まえ、具体的なケースに応用できるようにまとめました。

対象読者

  • 人事・労務担当者や経営者
  • 労働者本人や労働組合の担当者
  • 労働法の基礎を知りたい実務家

本稿の構成と読み方

第2章で条文の趣旨をやさしく解説し、第3〜9章で適用範囲、上限規定、例外、他の懲戒との関係、違反時のリスク、実務上の計算方法と注意点を順に説明します。まずは第2章から順に読むと全体像がつかめますが、特定の項目だけ確認したい場合は該当章を参照してください。

注意事項

本稿は一般的な解説です。個別の事案については専門家に相談することをおすすめします。

労働基準法第91条の概要と目的

概要

労働基準法第91条は、懲戒としての減給に対して使用者が一方的に厳しい処分を行うことを抑えるための規定です。就業規則で減給を定める場合、その限度や方法を明確にして、過度な減給を防ぐことを求めています。労働者の生活安定と雇用関係の公正さを保つことが目的です。

目的の具体的説明

  • 懲戒権の濫用防止:使用者が感情的に大きな額を減給することを防ぎます。
  • 生活保護:減給が生活基盤を脅かさないよう配慮します。
  • 予見可能性の確保:就業規則に基づき、労働者がどのような行為でどの程度の減給になるかを予め知れるようにします。

実務でのイメージ(具体例)

  • 例1:遅刻を繰り返した場合、日給の一部を減額する。ただし就業規則で上限を定めます。
  • 例2:無断欠勤が続いた場合でも、生活に支障が出るほどの大幅な減給は認められにくいです。

注意点

就業規則に明記すること、減給の理由と額が合理的であること、労働者に事前に周知しておくことが重要です。

減給制裁が適用される範囲

対象となる減給

労働基準法第91条が想定するのは、就業規則に懲戒処分として明記された「減給」です。会社が就業規則に基づいて懲戒として賃金を減らす場合に適用されます。減給の趣旨・額・期間を就業規則で定めていることが重要です。

具体的な問題行動例

  • 無断欠勤:連続した欠勤や常習的な無断欠勤
  • 遅刻の繰り返し:注意を受けても改善しない場合
  • 業務上の重大なミス:故意または重大な過失による損害
  • 情報漏洩:機密情報の持ち出しや外部流出
  • ハラスメント:パワハラ・セクハラ等の行為
  • コンプライアンス違反:法令や社内規程の重大な違反
    それぞれ、事実関係を明確にし説明責任を果たす必要があります。

減給の対象とならない例

  • 労使合意による賃金減額(相互の同意がある場合)
  • 人事評価や降格に伴う賃金の変更(懲戒とは性質が異なる)
  • 通常の欠勤控除など、労働時間・休日に基づく賃金計算

運用上の注意

減給は懲戒の一種として慎重に運用すべきです。処分理由と根拠を明確にし、対象者に説明することが求められます。場合によっては不当と判断され無効になるおそれがあります。

1回の減給額の上限規定

概要

労働基準法第91条で最も重要な制限は、1回の違反行為に対する減給額が、平均賃金の1日分の50%を上限とする点です。これは労働者の生活を不当に圧迫しないための規定です。

平均賃金の算定

平均賃金は、直近3か月間(通常は過去の3か月)の賃金総額を、その期間の所定労働日数で割って求めます。賃金総額には基本給、各種手当、時間外手当など継続的に支払われる賃金が含まれます。賞与や臨時の支給は原則として除外します。

1回の上限の意味と計算例

上限は「平均賃金1日分×50%」です。たとえば、直近3か月の賃金合計が90万円で所定労働日数が60日なら、1日分の平均賃金は1万5,000円、減給の上限はその半額で7,500円になります。
別の例として、残業代を含めて直近3か月の合計が120万円、所定労働日数が66日なら1日分は約18,182円、上限は約9,091円です。

実務上の注意点

・賃金の何を含めるかを明確にして計算を行ってください。
・この上限は1回の懲戒減給についての規定です。同じ期内の総額制限など別の規定もあります。
・計算方法や取扱いは事案ごとに異なることがあるため、必要なら専門家に相談してください。

同一賃金支払期内における総額の制限

規定の要点

労働基準法は、同じ賃金支払期(例:1か月ごとの給料支払期間)内で行う減給の合計額を、その期間に支払われる賃金総額の10分の1を上限と定めます。つまり複数回の違反があっても、合算した減給はその期間の総賃金の10%までです。

計算例

月給30万円の従業員がいた場合、当該月の減給合計は最大3万円までです。減給が1回で2万円、別の処分で2万円を追加すると合計4万円となり、1万円は限度を超えます。超過分は支払い義務が残ります。

実務上の注意点

  • 対象となる「賃金総額」は当該支払期に本来支払うべき賃金の合計を基準にするため、算定方法を明確にしておきます。
  • 減給の理由や金額は書面で残し、給与計算と照合してください。
  • 上限を超えた場合は、超過分を従業員に返還する必要がある点に注意してください。

留意点

同一期内という制約があるため、減給を分割して適用しても合計が上限を超えれば違法となります。公平かつ透明な運用を心がけてください。

適用されない減給の類型

概要

労働の提供がなかった時間について賃金を支払わない扱いは、労働基準法第91条が想定する「減給制裁」の規制対象ではありません。単純に働いていない時間分を差し引くことは原則として違反になりません。

具体例

  • 欠勤や無断欠勤で勤務しなかった時間分の不支給
    例:1日欠勤した場合、その日の時間給相当分を支払わない。
  • 出勤停止処分中の賃金不支給
    例:懲戒としての出勤停止で、その期間の賃金を支払わない扱い。
  • 会社都合による休業で実労働がない日の不支給(補償規定が別にある場合を除く)
  • 法定控除や労使合意に基づく控除
    例:所得税、社会保険料、従業員が同意した組合費や福利厚生費など。

賃金カットが制裁に当たる場合の注意

一方で、名目が何であれ実質的に懲戒目的の賃金減額は第91条の規制対象となります。具体的には、遅刻1回につき一律の罰金を科し、その額が実際に労働しなかった時間分を超える場合などは、制裁的な減給と判断されやすいです。

実務上の留意点

  • “働いていない時間分”と”懲戒目的の減額”を明確に区別すること。書面で理由や基準を残すと説明しやすくなります。
  • 自社ルールや就業規則で給与計算方法を定め、従業員に周知すること。
  • 判断が難しい場合は労働基準監督署や弁護士に相談することをお勧めします。

他の懲戒処分との組み合わせ

懲戒処分は減給のほか、けん責(注意)、譴責(厳重注意)、出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇などがあります。それぞれ性質が異なるため、組み合わせる際は目的と効果を明確にする必要があります。

  • 出勤停止と賃金不支給
    出勤停止中の賃金を支払わない扱いは、労働基準法第91条の「減給」に当たらないと解されています。したがって、出勤停止による給与の不支給は、同条の減給制限の対象外です。具体例を挙げると、3日間の出勤停止ならその3日分は支給しない一方で、同期間について別途「一回の減給」として賃金をさらに差し引く扱いは慎重に判断します。

  • 降格や賃金体系の変更
    降格は将来の賃金を下げる処分であり、契約や就業規則に基づいて実施します。ただし、降格の効果をさかのぼって賃金から差し引くことは問題になりやすいです。行政や裁判では、減給と降格の重複が過重と判断される場合があります。

  • 複数処分を行う際の注意点
    1) 同一事実に対して過度に重ねないこと。複数の処分が実質的に二重の罰にならないよう配慮します。
    2) 就業規則への明記と事前の周知を行うこと。処分の種類と基準を分かりやすく示します。
    3) 同一賃金支払期内での金銭的制裁は通算して妥当か確認すること。

実務では、処分の趣旨と効果、就業規則の規定、事案の内容を総合して判断します。重大な処分を検討する際は、記録を残し、労務や法務の専門家に相談することをおすすめします。

違反した場合の法的リスク

労働基準監督署の対応

就業規則の減給規定が第91条の上限を超えると、労働基準監督署(労基署)が規定の是正指導を行います。違法な減給処分は無効になり、企業は未払い分の賃金を支払う義務を負います。労基署はまず書面で指導し、必要に応じて改善命令を出します。

労働者が取れる手段

労働者は労基署に相談・申告できます。個別には未払い賃金の支払いを求めて会社に交渉し、解決しない場合は労働審判や民事訴訟で請求できます。証拠(給与明細、就業規則、減給通知など)を保存してください。

刑事責任と罰則

悪質な場合は書類送検されることがあり、罰金(30万円以下)などの処罰対象となります。使用者が故意に労働基準法違反を繰り返すと、刑事責任が問われるリスクが高まります。

具体例

例えば、就業規則で1回の減給を賃金の5分の1にすると定めた場合、上限を超えるため無効となり、差額の支払いを求められます。

注意点

減給を行う前に就業規則と手続きが法令に合っているか確認してください。就業規則の改定は労基署の指導を受ける前に社内で適正な手続きを踏むことが重要です。

実務上の計算方法と注意点

以下は、減給処分を実務で正しく行うための計算手順と注意点です。

計算手順(簡潔)

  1. 平均賃金の日額を確認する
  2. 例:月給30万円の場合の目安は、年額に換算して365で割る方法が分かりやすいです(300,000×12÷365=約9,863円)。
  3. 1回の減給上限を算出する
  4. 法定上限は平均賃金1日分の50%以内なので、上の例では約4,931円が上限になります。
  5. 同一の賃金支払期内での合計を確認する
  6. 就業規則で定めた範囲内で、同一支払期に複数回の減給があると合計額が問題になります。合計が給与の過度な減額にならないよう注意します。

具体例

  • 事例:遅刻を2回行った場合に1回ごと減給4,000円とする。上限(約4,931円)内なので妥当です。ただし同一支払期で他にも減給があれば合計を確認します。

実務上の注意点

  • 就業規則に対象行為と金額を明記すること。口頭だけでは不十分です。
  • 最低賃金を下回らないようにすること。部分的な計算ミスで違反になりやすいです。
  • 減給の理由と計算方法を文書で通知し、記録を残すこと。労使間の争いを避けられます。
  • パート・アルバイトは労働条件が異なるため、個別に計算方法を確認してください。

以上を踏まえ、数値の根拠を明確にして運用すると実務上のトラブルを防げます。

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