はじめに
目的
本資料は、労働基準法で定める「出来高払制(歩合給制・請負給制)」について、実務で必要な知識を分かりやすく整理したものです。労働者と使用者の双方が権利・義務を理解し、賃金計算や労務管理で誤りを減らすことを目的としています。
本書の対象
企業の人事・総務担当者、労働者、社会保険労務士など、出来高払制に関わる方を想定しています。専門用語は最小限にし、具体例を交えて説明します。
出来高払制に関係する主な仕事の例
- 営業の歩合給(契約1件ごとに報酬)
- 製造の出来高(部品を一定数作れば支払われる)
- 配達や運送の請負(件数や距離で報酬が決まる)
本資料の構成と読み方
第2章から第6章で、法的定義、具体例、割増賃金の計算方法、深夜・休日の扱い、最低賃金保障について順に解説します。実務で困ったときに参照しやすいよう、章ごとに事例と注意点を示します。
出来高払制の法的定義と基本概念
概要
出来高払制は、労働基準法27条と施行規則19条1項6号で定められる賃金制度です。成果(出来高)に一定の率や単価を掛け合わせて賃金を決めます。歩合給や請負給とも呼ばれ、売上や契約成立件数など成果に応じて賃金が変動します。
成果の範囲と具体例
成果には、販売額や受注件数、加工した製品の数量、運送した距離や個数などがあります。例えば営業なら契約成立件数、配達業務なら配達件数や距離が出来高になります。重要なのは労働者本人の実際の労働成果であることです。
客観的基準の必要性
出来高は客観的に測れる基準で示す必要があります。数値で管理できること、記録が残ることが求められます。口頭評価や主観的な判断だけでは適切とは言えません。
法的に注意する点
出来高払制でも最低賃金や労働時間の規制は適用されます。賃金が極端に低くならないように配慮し、時間外や深夜、休日の割増賃金の扱いを明確にしておく必要があります。したがって、契約や就業規則で測定方法と計算方法を明示してください。
出来高払制の具体的な適用例
売上給(業績給A)
売上額に応じて支給額が段階的に決まる方式です。たとえば、月間売上10万円未満は基本給+0円、10〜20万円は+1万円、20〜30万円は+2万円……というように9段階で設定します。社員は売上を伸ばすほど支給が増え、成果に応じた報酬が明確になります。
件数給(業績給A)
作業1件ごとに定めた単価で支払います。自動車の車格で単価を変える例が分かりやすいです。小型車1件=800円、中型車=1,200円、大型車=1,800円のように設定し、月間件数×単価で計算します。作業量が増えるほど賃金が上がります。
業績給B(特定作業手当)
特定の作業に対する追加手当です。たとえば、難易度の高い部品交換や特殊清掃に対し、1回につき固定額を支給します。業務の専門性や手間を評価できます。
愛車手当(洗車・ワックス回数に応じた支給)
洗車やワックスがけの実施回数に応じて支給します。例:洗車1回=300円、ワックス1回=500円。回数を記録して月末に合算します。従業員の付加的努力を促します。
これらは従業員の成果や付加的努力を評価する仕組みです。実務では記録と評価基準を明確にして、誤解や不公平を防ぐことが大切です。
出来高払制における割増賃金(残業代)の計算方法
計算の基本方針
出来高払制では賃金を「固定給部分」と「出来高(歩合)部分」に分けて計算します。固定給部分の残業は通常どおり時給×1.25で計算します。一方、出来高給は通常労働時間分を既に含むとみなされるため、割増分は1.25ではなく0.25(つまり25%分)だけを上乗せして計算します。
計算手順(実務上の流れ)
- 所定労働時間で各部分の時給を出す(会社の所定時間は就業規則で確認)。
- 固定給の残業賃金は「時給×1.25×残業時間」。
- 出来高給の割増は「出来高の時間当たり相当額×0.25×残業時間」。
具体例
条件:基本給160,000円、歩合給200,000円、所定労働時間を160時間と仮定、残業40時間。
– 固定給の時給=160,000÷160=1,000円。残業賃金=1,000×1.25×40=50,000円。
– 出来高給の時給=200,000÷200(会社の算定基準による)=1,000円とすると、出来高部分の割増=1,000×0.25×40=10,000円。
合計の割増賃金(例)=50,000+10,000=60,000円。
注意点
所定労働時間の扱いや出来高給の按分方法で結果が変わります。正確な算定は就業規則や給与担当に確認してください。
深夜労働と休日労働における割増賃金
概要
出来高払制でも、法定の労働時間を超えたり深夜・休日に働いたりした部分には割増賃金が必要です。割増率は次のとおりです。
割増率(要点)
- 時間外労働:25%以上(1か月の時間外・休日労働の合計が60時間を超える場合は50%以上)
- 法定休日労働:35%以上
- 深夜労働(22:00〜5:00、法定労働時間内):25%以上
- 時間外の深夜労働:50%以上(60時間超の時間外を含む場合は75%以上)
- 休日の深夜労働:60%以上
計算の実務的な考え方(具体例)
- まず出来高で支払われた総賃金を集計します(例:50,000円)。
- 総労働時間で割って時間当たりの実効賃金を出します(例:50時間で1,000円/時)。
- 割増は、該当する時間に対して「時間当たりの賃金×割増率」で計算します。たとえば、時間外深夜1時間なら1,000円×1.5=1,500円(通常の1,000円+割増500円)。
注意点
- 割増率は最低基準です。労使協定や就業規則でより高い率を定めることができます。
- 出来高払制でも賃金不払いがあってはいけません。記録を残し、計算が分かるようにしておきましょう。
計算が複雑な場合は、労働基準監督署や社労士に相談してください。
出来高払制における最低賃金保障(保障給)
概要
労働基準法27条は、出来高払制の労働者について、労働時間に応じた一定額の賃金を保障することを使用者に義務付けています。これは景気変動や注文減少など、労働者の責に帰さない理由で賃金が下がるのを防ぐ趣旨です。
保障給の考え方
保障給の額は法律で明確に決められていません。実務では「時間当たりの通常賃金×労働時間」や「平均賃金を基にした一定額」を基準にします。最低賃金法や労働契約で定めた額を下回ってはなりません。
具体例
例:1個500円、10個で5,000円、労働時間8時間、地域の最低賃金1,000円の場合、保障給は8×1,000=8,000円となり、使用者は不足分を補填して合計8,000円を支払います。
運用上の注意
- 保障給は労働契約や就業規則に明記してください。
- 減額が労働者の責めに帰する場合は適用が異なります。例えば怠慢や正当な理由のない欠勤は除外され得ます。
- 紛争時は労基署や弁護士に相談してください。


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