はじめに
概要
本記事は、就業規則違反に関する基本的な考え方や対応方法を分かりやすくまとめた入門ガイドです。定義や具体例、企業が取るべき手順、懲戒処分の種類や基準、就業規則を作る際の注意点まで、全8章で体系的に説明します。
対象読者
主に人事・労務担当者や経営者を想定していますが、管理職や社内でルール運用に関わる方にも役立ちます。法的な専門家でない方でも理解しやすい表現で書いています。
本記事の目的と構成
目的は、違反行為を適切に把握し、公正に対応できる実務的な知識を提供することです。後続章では、違反の判断基準、発見時の対応手順、懲戒の種類と運用ルール、就業規則作成の要点を順に解説します。
読み方のポイント
具体例を多く挙げているため、自社のケースと照らし合わせて読み進めてください。必要があれば労働相談窓口や弁護士に相談することをお勧めします。
就業規則違反とは
定義
就業規則違反とは、企業が定めた勤務ルールや服務規律に反する行為を指します。職場でのルールは業務を円滑に進め、他の従業員の働きやすさを守るためにあります。
法的根拠
就業規則は労働基準法に基づき作成され、労働条件や懲戒の基準などを明確にします。会社は従業員に対し、守るべき事項を示す義務があります。
企業が課す主な義務
- 守秘義務:顧客情報や社内情報を外部に漏らさないこと
- 誠実義務:勤務中は業務に専念すること
- 服務規律:出退勤、連絡、報告のルールを守ること
- ハラスメント禁止:他者の尊厳を損なわないこと
違反と犯罪の違い
就業規則違反は社内規律の問題で、必ずしも犯罪とは限りません。ただし、横領や重大な情報漏えいは刑事事件に発展することがあります。
具体例(短く)
無断欠勤、遅刻の常習、業務外の私的利用、重要情報の持ち出しなどが典型例です。
結果と注意点
違反があれば注意や懲戒処分の対象になります。処分には公正な調査と適正な手続きが必要です。自分の行為が規則に触れていないか、就業規則を確認する習慣を付けると安心です。
就業規則違反に該当する具体的な行為
以下は、企業でよく問題になる具体的な違反行為と簡単な説明です。各項目は事実関係や程度によって処分の重さが変わります。
1. 機密情報の持ち出し
顧客情報や技術資料を無断で社外に持ち出す行為です。たとえば、顧客リストを私用のUSBに保存する場合などが該当します。
2. 不正打刻
タイムカードや勤怠システムを他人に操作させる、自己の出退勤時間を改ざんする行為です。
3. 無断欠勤・遅刻
事前連絡なく長時間欠勤したり、繰り返し遅刻するケースです。業務に支障が出ます。
4. 職務怠慢
指示された業務を著しく怠ること。例えば納期を守らない、報告を怠る場合です。
5. 副業のルール違反
就業規則で制限された副業を無断で行う場合です。競業避止義務に反する行動も含みます。
6. ハラスメント行為
セクハラ・パワハラなど、他者の尊厳を侵害する言動です。被害者の申告があれば早期対応が必要です。
7. 業務命令違反
合理的な業務命令を拒否する行為です。正当な理由がない拒否は問題となります。
8. 経費の不正
領収書の改ざんや架空経費の申請など、会社資金を不正に利用する行為です。
9. 暴力行為
職場での暴力や威嚇は重大な違反です。安全確保の観点から厳しく対処します。
10. 会社への損害隠蔽
社内のミスや事故を隠して被害を拡大させる行為です。早期報告が求められます。
各項目は具体的事実や頻度、悪質性で判断されます。まずは事実確認を行い、本人から事情を聴取することが大切です。
就業規則違反を発見した場合の企業側の対応方法
1. 発見直後の調査と記録
違反を見つけたら、まず事実関係を確認します。日時・場所・関係者・証拠(メール、勤怠記録、写真など)を速やかに記録します。感情的な判断を避け、客観的な証拠を残すことが重要です。
2. 初期対応:口頭注意と書面の求め方
軽微な違反ならまず口頭で注意します。注意の際は具体的な問題点と期待する行動を伝え、記録に残します。再発が疑われる場合や重大性が増す場合は、始末書の提出を求め、書面で事情を確認します。
3. 聞き取りと弁明の機会の確保
処分を検討する前に、当該社員から事情聴取を行い弁明の機会を与えます。公平な聞き取りを行い、必要なら第三者を立ち会わせます。本人の説明を記録に残してください。
4. 懲戒処分の検討と手続き
懲戒を行う場合は就業規則に基づいて決定します。違反の内容と過去の処分歴を照らし合わせ、処分の重さを決めます。減給や出勤停止などの処分は法的制限があるため、適用基準を明確にしておきます。
5. 退職勧奨と解雇の取り扱い
会社都合での解雇は最終手段です。退職勧奨を行う際は、丁寧に説明し自主退職の判定が適正か見極めます。解雇する場合は、証拠と手続きの正当性を慎重に確認し、労働基準法や判例を踏まえて行います。
6. フォローと再発防止
処分後は勤務先でのフォローを行い、再発防止策を講じます。教育や業務ルールの周知、職場環境の改善などを実施し、記録を保存してください。
必要な場合は人事や顧問弁護士と相談し、手続きを進めると安全です。
懲戒処分の種類
1. 厳重注意
言葉による強い注意です。軽微な規律違反や始めての小さなミスに対して使います。例:遅刻が増えた場合に口頭で改善を促す。
2. 始末書提出
違反の事実と反省を書面で提出させます。社内記録として残り、繰り返しがあれば次の処分につながります。例:備品の私的流用を認めた場合。
3. 減給
給料を一定期間差し引きます。違反の損害に応じて金額を決め、就業規則で根拠を示します。例:会社財産を損壊した場合の補填目的。
4. 出勤停止
勤務を一定期間停止し無給にすることがあります。業務に重大な支障を与えた場合に適用します。例:無断欠勤や重大な指示違反。
5. 降格
職位や職務権限を下げます。管理職の責務を果たせなかった場合などに用います。例:職務上の重大な過失。
6. 諭旨解雇
会社の指導に従えば解雇を回避できる旨を伝えつつ辞職を促す扱いです。実務上は社員に選択を与える形になります。
7. 懲戒解雇
最も重い処分で即時解雇に相当します。横領や暴力行為など重大な違反に限定して適用します。
どの処分も、違反の程度や経緯を確認し、就業規則に基づいた手続きを踏むことが重要です。
懲戒解雇について
定義と位置づけ
懲戒解雇は最も重い懲戒処分で、労働契約を即時に解除する措置です。重大な信頼関係の破壊がある場合に限って適用します。企業は相当の理由を示せるように準備する必要があります。
懲戒解雇が認められる具体例
- 横領や業務上の重大な背任
- 暴力行為や重大なセクシャルハラスメント
- 営業秘密を故意に漏えいして競合他社に利益を与えた行為
これらは信頼回復が困難であり、解雇が妥当と判断されやすい例です。
即日解雇や退職金不支給について
即日解雇は可能ですが、理由の説明と証拠が必要です。就業規則に退職金不支給の規定を明記していると運用しやすくなります。裁判所は社会通念や事情を総合して相当性を判断します。
手続き上の実務ポイント
- 事実関係を速やかに調査し、証拠を保存します。
- 当該社員に弁明の機会を与え、記録を残します。
- 懲戒委員会や上長の判断を文書化します。
リスクと対策
不当解雇と判断されると、復職や損害賠償の可能性があります。そのため、就業規則の整備・証拠保存・第三者の関与・専門家相談を徹底してください。
就業規則作成時の重要なポイント
はじめに
就業規則は労働契約のルールブックです。法令に合致し、実務に即した内容にすることが大切です。
法令遵守を最優先に
労働基準法や労使協定(例:36協定)に違反しない内容にします。法的に義務付けられた項目は必ず盛り込みます。
必要記載事項を具体的に
就業時間・休憩・休日、賃金(計算方法・支払日)、退職・解雇、育児・介護休業、懲戒の基準などを明確に書きます。例えば賃金は「毎月25日支払い、時間外は時給×1.25」といった具体例が分かりやすいです。
違反行為と罰則を明確化
どの行為を違反とするか、段階的な処分(注意→戒告→減給→懲戒解雇)を示します。処分の理由と手続き、証拠の残し方も規定します。
労働者代表の意見聴取
作成・変更時は労働者代表の意見を聴取して書面で残します。代表の選び方や意見記録の保存方法も決めておくと安心です。
周知と運用方法
全従業員への配布や掲示、入社時の説明を徹底します。電子化する場合は閲覧方法や同意の取り方を明確にします。
見直しの仕組み
法改正や運用で問題が出た際の定期見直しルールを設けます。相談窓口や担当者を決めて現場の声を反映しましょう。
企業が留意すべき点
処分を行う前の基本姿勢
処分は企業の秩序を守るために行いますが、軽率に決めてはいけません。業務内容や扱う情報の重要性を踏まえ、どの程度の違反がどれだけの影響を与えるかを具体的に評価してください。たとえば、顧客情報の無断持ち出しは業務に重大な影響を与えますので厳格な対応が必要です。
就業規則に基づくこと
就業規則に規定のない処分はできません。処分の種類や手続き、懲戒事由は明確に書き、社員に周知してください。具体例として、懲戒処分の段階や減給の算定方法を明記すると運用が安定します。
公平性と証拠の確保
事実関係は記録・保存し、当事者の意見を聴取したうえで判断します。一方的な処分は争いを招きます。調査は客観的な証拠(ログ、メール、目撃証言など)を集め、関係者の発言はメモで残してください。
法令遵守と人権配慮
労働法や個人情報保護法など関係法令を確認してください。処分が差別や不当解雇に当たらないか、身体・精神の状況など配慮を要する事情がないかも検討します。
一貫性と透明な運用
同様のケースで処分がぶれないよう、過去事例を参照して決定基準を整備します。処分理由や手続きを書面で伝え、異議申立ての方法を示すと安心感を与えます。
事後対応と再発防止
処分後は職場の関係修復や再発防止策を検討します。教育や業務改善、就業規則の見直しを行い、必要なら外部専門家に相談してください。


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