はじめに
「就業規則に損害賠償の条文を入れたいけれど、どのように定めればいい?」
「従業員のミスで会社に損害が出た場合、実際にどこまで請求できるの?」と迷っていませんか。
備品の破損や業務上のミスなどに備えて規定を設けようとしても、「損害は全額従業員が賠償する」と書いてよいのか、具体的な金額まで決められるのか判断に迷うことがありますよね。
この記事では、就業規則に記載する損害賠償の条文例から、従業員に請求できる範囲、規定を設ける際の注意点まで順を追って説明していきます。
就業規則に記載する損害賠償の条文例

就業規則に損害賠償について定める場合は、従業員の故意・過失によって会社に損害が生じた場合の扱いを明確にしておくことがポイントです。
ここでは、損害の全部または一部を賠償させる場合と、退職後に損害が判明した場合を含めた条文例を紹介します。
故意・過失による損害の全部または一部を賠償させる記載例
従業員の故意または過失によって会社に損害が生じた場合は、「従業員が故意または過失により会社に損害を与えたときは、会社はその損害の全部または一部の賠償を求めることがある」と記載できます。
損害額をあらかじめ決めず、実際の損害や責任の程度に応じて判断できる内容にしておくことが大切です。
退職後に損害が判明した場合を含める記載例
退職後に損害が判明するケースも想定するなら、「従業員が故意または過失により会社に損害を与えたときは、在職中または退職後を問わず、会社はその損害の全部または一部の賠償を求めることがある」と記載できます。
在職中の行為による損害が退職後に分かった場合も対象になることを、分かりやすく示しておきましょう。
就業規則に損害賠償を定めるときの注意点
就業規則に損害賠償の規定を設ける場合は、会社が自由に賠償額や請求範囲を決められるわけではありません。
ここでは、損害賠償の予定額に関するルールと、実際に請求できる範囲について説明します。
損害賠償の予定額をあらかじめ決める規定は設けない
就業規則には、「違反した場合は10万円を支払う」など、損害が発生する前から賠償額を固定する規定は設けないようにします。
労働基準法第16条では違約金や損害賠償額を予定する契約が禁止されているため、実際に損害が生じた後に、損害額や従業員の責任を確認して判断する内容にしましょう。
損害賠償の規定があっても全額請求できるとは限らない
就業規則に損害賠償の規定があっても、会社に生じた損害のすべてを従業員へ請求できるとは限りません。
従業員の故意・過失の程度や業務内容、会社の管理体制なども踏まえて判断されるため、一律に全額負担とせず、個別の事情に応じて賠償範囲を検討することが大切です。
従業員に請求できる損害賠償の範囲
従業員の行為によって会社に損害が発生しても、発生した損害の全額をそのまま従業員へ請求できるとは限りません。
ここでは、従業員に請求できる損害賠償の範囲を判断する主な材料について説明します。
故意・過失の程度や業務内容によって負担額が変わる
従業員に求める負担額は、故意に損害を与えたのか、不注意によるものなのかなど、故意・過失の程度によって変わります。
また、業務内容や事故・損失が起こる可能性なども踏まえ、会社に生じた損害額だけでなく、従業員がどの程度の責任を負うのかを個別に判断します。
会社側の教育や事故防止策・保険も判断材料になる
損害賠償の負担額を考える際は、会社が必要な教育を行っていたか、事故を防ぐための体制を整えていたかなども判断材料になります。
また、保険によって損害が補填される場合もあるため、会社側の対応や補填の状況も踏まえて、従業員の負担額を判断することが大切です。
従業員に損害賠償を請求するときの注意点
従業員に損害賠償を請求する場合は、就業規則に規定があることだけで請求を進めるのではなく、実際にどのような損害が発生し、従業員にどの程度の責任があるのかを確認する必要があります。
ここでは、損害賠償を請求する前に確認すべき内容と、給与からの天引きに関する注意点について説明します。
実際に発生した損害と従業員の責任を確認する
損害賠償を請求する前に、会社に実際に生じた損害の内容や金額を確認します。
そのうえで、従業員の行為との因果関係や故意・過失の程度などを踏まえ、就業規則の規定だけで判断せず、どこまで責任を負うのかを個別に検討することが大切です。
従業員のミスが大きなトラブルにつながった場合、「損害賠償だけでなく懲戒処分もできるの?」と判断に迷うことがあります。処分を検討するときの考え方は、以下の記事も参考にしてください。
▶従業員を懲戒処分できるケースとは?処分の種類と判断するときの注意点
損害賠償額を給与から一方的に天引きしない
会社が従業員に損害賠償を請求する場合でも、その金額を給与から一方的に差し引くことはできません。
労働基準法第24条では賃金の全額払いが原則とされているため、損害賠償の請求と給与の支払いは分けて考え、給与は原則として全額を支払います。
損害賠償を給与から差し引けないのであれば、「会社はどのような場合に給与から控除できるの?」と気になる方もいるでしょう。給与から控除できるケースやルールについては、以下の記事で詳しく解説しています。
▶給与から天引きできるものとは?会社が控除できる項目と注意点
まとめ
就業規則に損害賠償の規定を設けるときは、賠償額をあらかじめ決めず、実際の損害や従業員の責任に応じて判断できる内容にすることが大切です。
損害が発生した場合は、故意・過失の程度や会社側の管理体制なども確認しながら、負担する範囲を個別に検討します。また、賠償額を給与から一方的に差し引かず、給与の支払いとは分けて対応しましょう。
トラブルを防ぐためにも、一律に全額負担を求めるのではなく、それぞれの事情に合わせて判断できる規定にしておくと安心です。


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