はじめに
目的
本調査は、シフト制で働く方が有給休暇と公休(所定休日)の違いを正しく理解し、実際に使える有給消化の方法を身につけることを目的としています。制度の基本だけでなく、職場での日々の運用に役立つ実例も紹介します。
対象読者
シフト勤務の従業員、シフト作成にかかわる管理者、人事担当者を想定しています。労働慣行に不安がある方や、より効率的に休暇を取る方法を探している方にも役立ちます。
本書で扱う内容(概要)
- シフト制の基本的な特徴
- 有給休暇の付与日数の決め方と計算のポイント
- 有給と公休(所定休日)の違いと扱い方
- シフト制での有給消化の実践例と注意点
- 年次有給休暇の取得義務や管理簿の重要性
読み方のポイント
具体例を多めに示しますので、自分の勤務形態に当てはめて考えてください。用語は必要最小限にとどめ、分かりやすさを優先しました。疑問があれば、次章以降で順を追って確認してください。
シフト制とは何か
概要
シフト制とは、あらかじめ決めた時間帯や曜日の勤務枠(シフト)に従業員を割り当て、交替で働く仕組みです。固定勤務と異なり、出勤・退勤時刻や休日が日によって変わります。飲食・小売・医療・介護など、多様な業種で使われています。
主な特徴
- 勤務時間や休日が流動的で、シフト表で管理します。
- 繁忙期や時間帯に応じて人員を増減できます。
メリット(具体例)
- 柔軟な人員配置:飲食店なら週末や夜に多くのスタッフを配置できます。
- 働き手の幅が広がる:学生や育児中の人が勤務しやすくなります。
デメリットと注意点
- 生活リズムが乱れやすく、健康管理が必要です。
- 公休や有給の扱いを明確にしておく必要があります。労働基準法の範囲内で運用してください。
業種ごとの例
- 飲食・小売:営業時間に合わせて夜間や週末に多く配置します。
- 医療・介護:24時間体制のため交替で勤務します。
- 工場:生産を止めないための交替勤務があります。
運用のポイント
- シフト作成ルールを明確にし、早めに公開します。
- 有給や休暇の申請方法を統一します。
- 連続夜勤など健康面への配慮を行います。
シフト制における有給休暇の付与日数の決め方
概要
シフト制では週ごとの勤務日数が一定でないことがあります。事前に確定したシフト表(締め切り済みの勤務予定)を基に、所定労働日数を算出して有給の付与日数を決めます。勤続期間に応じて付与日数が増える点は共通です。
決め方の手順
- 確定したシフト表を用意します。代表となる期間(例:1か月や1年間)での勤務日数を数えます。
- その期間の総勤務日数を週数で割り、1週間あたりの平均所定労働日数を出します。
- 平均の所定労働日数に応じて、勤続期間ごとの付与日数表に当てはめます。
具体例
- 週1回のシフトが確定している場合:付与は1日(例)。
- 週4回のシフトが確定している場合:付与は7日(例)。
これらは代表的な例で、勤続年数によって日数は増えます。
実務上の注意点
- シフトが変動する場合は、付与の基準となる代表期間を明確にします。
- 付与日は労働契約書や就業規則に明記して、社員に通知します。
- 付与のタイミング(入社後何か月で付与するか)や、半日単位での取得可否も確認しておきます。
有給休暇と公休(所定休日)の違い
概要
有給休暇は、労働すべき日に労働を免除してもらい、賃金が支払われる制度です。出勤予定の日にのみ使えます。公休(所定休日)はあらかじめ勤務予定に入っていない「休みの日」です。もともと休みだった日には有給を充てられません。
わかりやすい違い
- 有給:出勤日を休むために使う。会社のシフトで「出勤」とされている日が対象です。
- 公休:そもそも出勤予定のない日。休日扱いで、使用済みの有給日数にはなりません。
具体例
シフトで月曜と水曜が出勤予定の社員が、月曜に有給を取ればその日は有給扱いになります。日曜が元々公休なら、日曜に有給を申請しても認められません。ただし、シフトの変更で日曜が出勤日になれば、有給を使うことが可能です。
手続きと記録
有給を使うときは通常、事前に申請します。会社は有給の消化を記録し、残日数を管理します。公休は申請ではなく、シフト表や就業規則で定められた休みとして扱います。
注意点
振替休日や代休と混同しないでください。振替や代休は勤務実績や会社の取り決めで発生する休みで、有給とは性質が異なります。分からないときは職場の総務や労務担当に確認しましょう。
シフト制での有給消化の方法
申請のタイミング
シフト確定前に有給を申請すると、勤務表に反映されやすく調整が楽です。例:2〜4週間前に希望日を出すと、シフト作成者も代替要員を割り当てやすくなります。
申請パターン
1) シフト確定前に希望を伝える方法:希望日をまとめて提出し、シフト作成時に組み込んでもらいます。繁忙期は早めに出すと通りやすいです。
2) シフト確定後に有給を充てる方法:既に勤務日になった日の有給申請は調整が難しいため、急用以外は避ける方が無難です。
退職時の有給消化
退職予定がある場合は、退職届と同時に有給消化の希望日を出してください。残日数を確認し、書面やメールで申請履歴を残すとトラブルを防げます。
実務のコツ
- 半休や時間単位の取得が可能なら活用する。\n- 代理人を事前に決めて引き継ぎを簡潔にする。\n- 会社のルール(申請方法・承認期間)を事前に確認する。
年次有給休暇の取得義務と計画的付与
法律上の義務
労働基準法では、企業は年次有給休暇を従業員に与え、最低でも年5日の取得を確保する義務があります。例えば、年10日の付与がある社員には、会社が少なくとも5日は取得させる必要があります。企業は取得状況を把握し、不足分があれば取得を促す責任があります。
計画的付与とは
計画的付与は、就業規則や労使協定であらかじめ消化日を指定する方法です。たとえば夏季に全員一斉で3日間を会社が指定すると、従業員はその日を有給として消化します。これによりシフト調整が簡単になります。
実務での進め方
・就業規則や労使協定に具体的日程や対象範囲を明記します。
・従業員に十分な事前通知を行い、同意を得ます。
・パートタイマーは勤務日数に応じて日数を按分します。
・シフト表や管理簿に記録して、取得状況を見える化します。
注意点
計画的付与は従業員の権利を奪う手段にしてはいけません。急な事情で別の日に休みたい場合は調整に配慮しましょう。また、有給は通常の賃金で支払われますので、給与処理も忘れずに行ってください。
年次有給休暇管理簿の重要性
目的と法的意義
年次有給休暇の付与・使用を記録した管理簿は、労務管理の基本です。取得日・付与日数・基準日などを明確に書き残すことで、後日の照合や労務トラブルの予防になります。法的にも証拠として重要な役割を果たします。
記載すべき項目(例)
- 従業員氏名・社員番号
- 付与日(基準日)と付与日数
- 取得日・取得日数(時間単位取得は時間で記録)
- 残日数の推移(使用後の残日数)
- 管理者の確認印や更新日
例:シフトで半日(4時間)休んだ場合は「取得日:2025/5/1、取得時間:4時間」と記載します。
記録の運用と保存
管理簿は紙でも電子でも構いません。自動計算や検索ができる電子化を推奨します。監査や労使紛争に備え、一定期間は保存しておくと安心です(一般に3年程度を目安に管理するとよいでしょう)。
実務のポイント
- 定期的に残日数を従業員に通知して誤解を防ぐ
- シフト変更時は有給との兼ね合いを明示する
- 記録は誰が、いつ更新したかを残す
これらを習慣化すると、透明で信頼できる有給管理が実現します。
シフト調整時の有給活用
概要
勤務希望日が重なり人手が余るとき、店長などが従業員に有給取得を打診して調整できます。シフト調整と有給消化を同時に進める方法で、従業員と職場双方に利点があります。
実践手順
- 早めに候補日を把握し、希望者を募ります。急な余剰が分かれば早めに声をかけます。
- 従業員の意向を尊重して打診します。強制はできません。承諾を得たら勤務表に反映し、出勤簿に有給として記録します。
- 代替勤務や交代要員が必要なときは、別日に出勤可能な人を調整します。
打診の例文
- 「今週は人手が余っています。有給を使って休めますか?」
- 「来週○日を有給で休める人はいますか。出勤すると時間が余ってしまうため、調整したいです。」
注意点
- 有給取得は労働者の権利なので、同意が前提です。
- 記録は労基法に沿って正確に残します。
メリット
- 従業員は計画的に有休を消化できます。職場は無駄な人件費を抑えつつ円滑に運営できます。
まとめ
シフト制では、有給休暇は「本来働く予定だった日」に充てる点が最も大きな特徴です。固定勤務と扱いが異なるため、運用ルールをあらかじめ決めておくことが重要です。
- 申請のタイミングを明確にする:シフト確定前に有給希望を出すのが原則です。たとえば、旅行や通院など予定がある場合は、シフト表が確定する前に申請しておくと調整がスムーズです。
- 公休と有給の区別を徹底する:所定休日(公休)に有給を使うことは原則できません。混同すると勤怠管理でトラブルになります。
- 事業者と労働者の両方が役割を果たす:事業者は付与日数や管理簿の整備、取得しやすい仕組み作りを行い、労働者は早めの申請と記録の確認を心がけます。
運用のコツは「事前の申請」と「透明なルール作り」です。職場でルールを共有し、柔軟に調整することで有給を適切に使えます。正しい理解と実務の工夫があれば、職場の安心感が高まります。


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