はじめに
本調査の目的
本調査は、退職時の有給休暇消化と雇用保険の関係を分かりやすく整理することを目的としています。法律や制度の基本を押さえつつ、実務でよくある疑問に具体例で答えます。
想定する読者
会社を退職する方、人事担当者、転職活動中の方を想定しています。専門家でない方にも理解できるように専門用語は最小限にし、具体例を添えます。
本稿の範囲と注意点
有給休暇中は原則として雇用契約が続き、雇用保険や社会保険の加入状態にも影響が出ます。雇用保険の二重加入は禁止される点や、失業給付の受給条件にも関わるため注意が必要です。個別の事情によって扱いが変わることがありますので、最終的には雇用先やハローワークなどで確認してください。
読み方の案内
各章で具体的なケースと手続きのポイントを示します。まずは次章で有給と雇用保険の基本を確認してください。
有給休暇と雇用保険の基本的な関係
有給休暇中も雇用関係は続きます
有給休暇は「労働する義務」を免れるだけで、雇用契約そのものは継続します。つまり、有給消化中も会社の従業員として扱われます。例えば、会社の就業規則や服務規律は原則として適用されますし、会社からの連絡には応じる必要がある場合があります。
社会保険・雇用保険の取り扱い
有給消化中も健康保険や厚生年金、雇用保険の被保険者として加入状態が続きます。給与が支払われる限り、保険料の計算や資格は通常どおり行われます。短期の休暇であれば保険の手続きは特に変わりません。
退職日と資格喪失日
退職する場合、有給を消化してから辞めると「退職日」は有給の最終日になります。その翌日が社会保険の資格喪失日になります。たとえば、最終出勤日が6月1日で有給消化が6月30日までなら、6月30日が退職日で、7月1日に社会保険の資格を失う扱いになります。
以上を踏まえ、有給消化中の働き方や手続きは事前に会社と確認しておくと安心です。
雇用保険の二重加入の禁止
概要
雇用保険の二重加入は法律で禁止されています。有給消化中に転職先で働き始めると、現職と転職先の両方で被保険者になるおそれがあります。これを避けるため、事前の手続き調整が必要です。
なぜ禁止か
雇用保険は被保険者としての加入期間に応じて給付が決まります。二重に加入すると保険料や給付の計算が不正確になり、行政上の問題や事業主・労働者双方の責任が発生します。
回避方法(手順)
- 現職に「被保険者資格喪失届」の提出を依頼する。退職日を基準に資格は喪失します。
- 転職先にその書類を提出するか、退職日以降に勤務開始日を設定する。
- 退職手続きが完了するまで開始日を調整することで、二重加入を防げます。
具体例
例:退職日が4月30日で有給消化中に4月15日から転職先で働くと二重加入の恐れ。勤務開始を5月1日にすれば問題ありません。
注意点
給与支払いや社会保険の手続きとあわせ、雇用保険の資格喪失日を必ず確認してください。企業によって処理のタイミングが異なるため、余裕を持って調整しましょう。
有給消化中の転職活動と就労について
概要
有給休暇中に転職先で働くことは法律で明確に禁止されていません。とはいえ、有給期間中も雇用契約は続いているため、会社の就業規則や兼業禁止規定に触れる可能性があります。
主なポイント
- 雇用契約は継続しています。会社に無断で別の職場で就労すると就業規則違反となることが多いです。
- 社会保険や雇用保険の手続きで勤務実態が確認される場合があります。たとえば、新しい勤務先で社会保険に加入すると記録が残り、発覚するケースがあります。
- 同僚や顧客に目撃される、SNSで情報が伝わることでも発覚します。
実務的な注意点
- 転職先の就業開始日は前の会社の出勤再開日と重ならないよう調整してください。重なると二重就労と見なされやすいです。
- 就業規則や雇用契約の兼業・副業規定を確認しましょう。書面での同意が必要な場合もあります。
- 不安があるときは人事に相談するか、労働基準監督署や労働相談窓口で確認してください。
具体例
- 例1: 有給最終日に新会社で働くと、出勤記録や保険手続きで重複が発覚することがある。
- 例2: 事前に前職の同意を得て調整すれば、トラブルを避けやすくなります。
丁寧に手続きを進め、記録を残しておくことがトラブル回避の近道です。
社会保険手続きの複雑性
概要
有給消化中に転職先で働き始める場合、どちらの企業の社会保険(健康保険・厚生年金)を適用するかが問題になります。通常は現職の資格喪失手続きが退職後に進むため、有給中は現職の保険のままになることが多いです。
手続きの基本的な流れ
- 退職日を確定する。保険の資格喪失日はここに基づきます。
- 転職先に状況を伝える。入社手続きと保険加入のタイミングを調整します。
- 退職後、現職が資格喪失の届出を行い、転職先が新たな加入手続きを進めます。
具体例
Aさんは有給消化中に転職先で出社を始めました。現職は有給消化期間中も資格喪失の届出を退職日後に行ったため、Aさんは退職日の翌日から転職先の保険に切り替わりました。もし両社で同時に加入扱いになると手続きが複雑になります。
人事との連絡と注意点
転職先の人事に事前に詳しく伝えてください。保険証の返却時期、未払の保険料や給付の扱い、扶養変更の必要性などを確認します。書面で確認を取ると後のトラブルを防げます。
よくあるトラブル
- 保険証を両社で使える時期が重なり、医療費の負担や給付調整が発生する。
- 年金の資格取得・喪失の記録にズレが生じる。
事前に人事と調整し、書類をそろえておくことが最も重要です。
失業保険との関係
失業の定義
雇用保険上の「失業」とは、働く意思と能力があるのに仕事に就いていない状態を指します。単に仕事を探しているだけでなく、すぐに働けることが条件です。
有給消化中の扱い
有給休暇を取得している間は雇用契約が継続しています。ですから、有給消化中は「就業していないが労働の意思と能力がある状態」には当たりません。結果として、有給消化中に失業保険の申請や給付はできません。
具体例(分かりやすく)
例えば、3月31日が最終出勤日で4月1日から10日まで有給消化する場合、4月1日から10日は在職扱いです。ハローワークでの求職申し込みや受給手続きは、有給消化が終わってから行います。
転職先へすぐ就業する場合
有給消化の終了直後に新しい職場で働き始めるなら、失業状態になりません。そのため失業保険の対象外になります。
手続きの流れと注意点
離職票の受け取りや求職申し込みは有給終了日を基準に進めます。必要書類は離職票、身分証、写真、印鑑などです。疑問があるときは、事前にハローワークへ相談してください。
派遣社員の場合の特殊性
有給は誰が付与するか
有給休暇は派遣会社(派遣元)から付与されます。派遣先の指示で働いていても、雇用関係は派遣会社との間にあり、付与や管理も派遣会社が行います。
継続勤務の扱い(派遣先が変わる場合)
派遣先が変わっても派遣会社との雇用契約が継続している限り、勤続期間は途切れません。たとえば同じ派遣会社で複数のクライアントを渡り歩く場合、6か月の勤続要件や出勤率は派遣会社単位で判断されます。
契約形態による違い
登録型・登録派遣や単発の雇用契約では、契約と契約の間に雇用が途切れることがあり、その場合は有給の付与条件が満たされにくくなります。派遣契約が「期間契約」か「継続雇用」かを確認してください。
雇用保険や資格喪失の手続き
雇用保険の加入は派遣会社が手続きします。退職や契約満了で雇用が終了する際は、資格喪失の手続きや離職票の発行について派遣会社に相談してください。手続きが遅れると給付に影響することがあります。
実務的な注意点と例
- 例1: 派遣会社Aで同社の別案件へ移る場合→勤続は継続。\n- 例2: 派遣会社Aを辞めて派遣会社Bに移る場合→Aでの勤続は原則終了。
有給を使いたいときは、派遣会社へ早めに申請し、派遣先との調整も依頼してください。疑問があるときは雇用契約書や就業条件明示書を確認し、派遣会社の担当と書面で合意すると安心です。
有給消化中に新たに有給が付与される場合
付与タイミングの確認
有給は「勤務年数に応じた決まった日」に付与されます。まず、自分の付与日(基準日)を就業規則や給与明細で確認してください。付与日が退職日より前なら、新たな有給が発生する可能性があります。
退職日と会社の同意
退職日は原則として会社の同意が必要です。したがって、付与日に新しい有給が発生しても、退職日変更が会社の合意なく自動で認められるわけではありません。相談して合意が得られれば、その分の有給を消化できますが、合意が得られないこともあり得ます。
計算の仕方(簡単な例)
例:基準日が6月1日で、退職予定日が5月20日の場合、6月1日に新たな有給が付与されます。退職日を6月5日に延ばせば、付与分を数日間使えるかもしれません。具体的な日数は就業規則に従って計算してください。
相談と手続きのすすめ方
退職日を確定する前に、付与日と残日数を計算して人事・上司に相談しましょう。書面で合意を取ると後のトラブルを避けられます。給与や有給の買い取り規定も確認しておくと安心です。
有給消化の有効期限
有効期限の基本
有給休暇(年次有給休暇)は、付与された日から起算して2年間で時効になります。つまり、その年度に付与された日から2年以内に消化しないと消滅します。
繰り越しの扱い
1年目に消化しきれなかった日数は、2年目の範囲内で使えます。付与された別々の日ごとに2年の期限が別にあるため、古い有給から優先的に使うことが一般的です(例を下に示します)。
派遣社員の場合
派遣社員は所属する派遣会社が同じで、雇用に空白期間がない場合、派遣先が変わっても有給の繰り越しが可能です。雇用契約が途切れると扱いが変わるため、注意が必要です。
具体例
・2023年4月1日に10日付与→有効期限は2025年3月31日まで
・2024年4月1日に10日付与→有効期限は2026年3月31日まで
それぞれの有給は個別に期限を迎えます。
手続きのポイント
有給が消滅する前に計画的に取得してください。会社の就業規則や労務担当に確認すると、付与日や残日数が正確に分かります。
有給消化の理由について
概要
有給を取得する際、具体的な理由を勤務先に詳しく伝える義務はありません。旅行や私用、家庭の用事など、個人的な理由でも「私用のため」「所用のため」と伝えれば有給が認められるのが一般的です。
理由を伝える義務はない
法律上、労働者は有給休暇を取得する権利を持ちます。会社に詳細を説明する必要はなく、簡単な表現で問題ありません。ただし、業務に支障が出る時期は事前に調整することが望ましいです。
伝え方の具体例
- 旅行:『私用のため、○月○日に有給を取得します』
- 病院受診:『所用のため、午前中に有給を使います』
- 家族行事:『家庭の都合で○日間、私用休を取ります』
特別な場合の対応
病気やけがで連続して休む場合は、診断書や証明書を求められることがあります。転職活動や面接で取る有給は正直に言わなくても差し支えありませんが、勤務先のルールに従って申請してください。
注意点
連続取得や繁忙期の長期有給は、業務調整が必要になります。理由を詳しく言う義務はないものの、円滑な職場運営のために事前連絡と調整を心がけると良いです。


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