労働基準法に基づく有給消化の義務と権利の全貌解説

目次

はじめに

この章では、本ドキュメントの目的と読み方をやさしく説明します。

目的

2019年の法改正により、年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員に対して、事業主に年5日以上の取得を確保する義務が課されました。本書は、そのルールや実務上の注意点をわかりやすく整理することを目的としています。

想定する読者

  • 人事・総務の実務担当者
  • 管理職や経営者
  • 有給の取り扱いを知りたい労働者

本書の構成(全11章)

第2章~第11章で、対象者の範囲、付与条件、年5日の仕組み、時季変更権、繰越・時効、違反時の罰則、退職時の取り扱いなどを順に解説します。

まずは基本的な考え方と目次を押さえ、続く章で具体的な対応方法を確認してください。

有給消化義務の法的背景と対象者

背景

2019年4月、労働基準法が改正され、年10日以上の年次有給休暇(以下「有給」)が付与される労働者について、企業に「年5日以上を確実に取得させる」義務が課されました。狙いは、有給を与えたまま消化されない状況を改善し、労働者の休息と健康を守ることです。

対象者

対象は正社員だけではありません。契約社員、派遣社員、パートタイマーなど、年間で有給が10日以上付与されるすべての労働者が含まれます。年10日という基準は、継続勤務と出勤率などの条件で付与される基準に基づきます。

具体例

・入社後6か月で有給が10日付与される正社員→対象
・パートで勤務日数が一定以上で年10日付与される人→対象

企業の責務(概略)

企業は対象者に対し、少なくとも年5日の取得を促し、取得状況を把握・記録する責任があります。詳細な運用方法は後の章で説明します。

有給休暇の付与条件と基準期間

付与条件の基本

有給休暇が「年10日」付与されるためには、雇入れ日から6カ月間継続して勤務し、その期間の所定労働日の8割以上出勤していることが必要です。出勤率は「実際に出勤した日数 ÷ その期間の所定労働日数」で計算します。例えば、6カ月間の所定労働日数が20日×6=120日の場合、出勤日数が96日以上なら条件を満たします。

基準期間とは

基準期間とは、有給休暇が付与された日から起算する1年のことです。年10日が付与された場合、付与日から1年以内に最低5日を取得することが求められます。例として、2024年6月1日に10日付与されたら、2025年5月31日までに5日以上消化する必要があります。

実務上の注意点

継続勤務や出勤率の判定は事業所ごとに記録で確認します。パートや短時間労働者も同様の考え方で判定され、勤務日数や時間に応じて付与日数が変わる場合があります。疑問があるときは勤怠記録を確認し、会社の人事担当に相談してください。

年5日の有給消化義務の具体的な仕組み

基本の考え方

企業は従業員が自ら請求して取得した有給休暇日数と、労使協定に基づく計画年休で消化した日数を合算して確認します。合算した日数が5日に満たない場合、企業は残り日数について時季を指定して取得させることで義務を果たします。

具体例

  • 付与日数が年10日で、従業員が既に3日取得している場合:企業は残り2日を時季指定して消化させれば足ります。
  • 既に3日と計画年休1日で合計4日の場合:企業は残り1日を指定します。

企業がとるべき手順

  1. 年度ごとに各社員の取得日数を集計します。
  2. 計画年休と自己申請分を合算して5日との差を算出します。
  3. 残る日数がある場合、業務への支障を考慮して取得日を指定し、従業員に通知します。
  4. 指定した日を取得扱いにし、記録を残します。

注意点

  • 計算は年間単位で行います。
  • 指定は最低限の補填が目的です。従業員からの申請があれば、企業は可能な限り希望に応じる配慮が望まれます。
  • 記録を残すことで後のトラブルを防げます。

有給休暇は労働者の権利

法律で認められた権利

有給休暇は労働基準法が認めた労働者の権利です。労働者が請求した時季に原則として与えられるべきもので、休むことで賃金が支払われます。

使用者の義務と禁止行為

使用者は有給休暇の請求を一方的に拒否してはいけません。また、有給を理由に解雇や降格、差別的な扱いをすることは違法です。具体例を挙げると、休暇を取ったことを理由に評価を下げることや、配置転換で不利益を与えることは許されません。

時季変更権について(例外)

業務の正常な運営に支障があるときに限り、使用者は時季変更権を行使できます。例えば、繁忙期で全員が同時に休むと業務に重大な支障が出る場合などです。それでも、変更は必要最小限にとどめ、代替の時季を提示するなど配慮が求められます。

トラブルの対処法

請求を拒まれたり不利益扱いを受けた場合は、まず会社で相談窓口や就業規則を確認し、記録を残してください。それでも解決しないときは労働基準監督署や労働相談窓口に相談することをお勧めします。

時季変更権の制限と例外

概要

時季変更権とは、使用者が労働者の有給休暇の取得時期を変更できる権利です。ただし無制限に行使できるわけではなく、業務運営に著しい支障があるなど「やむを得ない事情」がある場合に限られます。

行使が認められる例

  • 同じ日に多数の従業員が休暇を希望し、業務継続が困難になる場合
  • 重要な設備の保守や顧客対応など、当日の人手がどうしても必要な場合
    これらは業務の正常な運営を守るための例外です。

行使が制限されるケース

  • 単なる繁忙期や都合の良さだけを理由に一方的に変更することは認められにくいです。従業員の私的事情(旅行や子どもの行事など)を全く考慮せずに拒否すると、恣意的な扱いと見なされます。

企業が守るべきポイント

  1. 必要性の説明:具体的な理由を示し、なぜ他日にできないか説明します。
  2. 代替案の提示:可能な限り別日を提案します。
  3. 早めの通知と記録:事前に事情を伝え、記録に残します。

従業員ができる対応

  • 理由の説明を求める、代替案を相談する
  • 不当だと感じたら労働基準監督署や労働相談窓口に相談する

企業は安易な拒否や強制を避け、双方が納得できる調整を心がけることが大切です。

従業員の判断による有給消化と権利放棄

概要

企業が時季指定義務を持つ年5日間を除き、残りの年次有給休暇は原則として労働者の判断で取得・不取得を選べます。ここでは「自主的に消化しない場合」と「企業が取得を妨げる場合」の違いを分かりやすく説明します。

従業員の自主的な選択

従業員が自分の都合で有給を取らない選択をしても、法的に問題はありません。たとえば忙しい時期に休みたくない、昇進を優先したいなど本人の意思による不取得は有効です。会社は取得を促すことはできますが、強制して取得させることはできません。

使用者が取得を妨げる場合(違法)

会社の方針で一律に「有給を取るな」と指示したり、申請を許可しない扱いをすると違法になります。使用者側の意思で有給取得を妨げれば、労働基準法に違反する可能性が高いです。例:上司が休暇申請を繰り返し却下する、就業規則で事実上取得を不能にする運用をする、など。

実務上の注意点と対応例

  • 記録を残す:有給を自主的に取得しない場合は、本人の意思をメールや申請システムで明確にしておくと後のトラブルを避けられます。
  • 会社の要求が不当なら相談を:取得を拒否される・圧力を受ける場合は、まず社内の相談窓口や労働組合に相談してください。必要なら労働基準監督署に相談できます。
  • 具体例:繁忙で有給を取らない社員→問題なし。会社が繁忙を理由に全員の申請を却下→違法の可能性あり。

以上の点を踏まえ、従業員は自分の意思で有給を使うかどうかを決められますが、会社側の不当な介入は認められないことを覚えておいてください。

有給休暇の繰越しと時効

繰越の基本

当該年度に消化されなかった年次有給休暇は、原則として翌年度に繰り越されます。会社が付与した日から権利が発生し、消化しない分は翌年に利用できます。

時効(消滅時効)について

有給休暇の権利は、発生してから2年で時効により消滅します。つまり、発生日から2年を過ぎるとその休暇は使えなくなります。

例:2023年4月1日に10日付与され、2023年度に使わなかった5日があれば、これらは2024年度に繰り越されます。ただし、2023年4月1日に発生した5日は2025年3月31日に時効で消滅します。

企業と従業員の注意点

企業は有給残日数と発生日を正確に管理し、従業員へ消化期限を知らせると安心です。従業員は自分の権利の発生日を確認し、期限内に計画的に消化してください。退職時の扱いは別章で詳述します。

違反時の罰則

概要

年5日の有給休暇の確保義務に違反すると、企業には30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。中小企業も例外なく対象です。従業員の権利を軽視すると法的な責任が生じます。

罰則の内容

  • 罰金:最高で30万円以下(個別の事案や改善状況によって判断されます)。

適用対象と具体例

  • 適用対象:有給休暇の年5日確保義務がある労働者を雇うすべての事業者。
  • 具体例:
  • 会社が有給取得の申請を認めない、または取得させない扱いをした場合。
  • 付与した有給日数の管理をせず、従業員が5日取得できない状態を放置した場合。

行政の手続きと企業の対応

  • 労働基準監督署などが調査し、まず是正指導や改善命令が出されることが多いです。改善に従わないと罰金が科されます。
  • 企業は記録を整え、取得状況を説明できるようにしてください。申請や付与の記録、社内の対応履歴が重要です。

事前に取るべき対策(実務的なポイント)

  • 有給取得状況を定期的に確認し、必要なら計画的付与を行う。
  • 就業規則や社内ルールで運用方法を明確にし、従業員へ周知する。
  • 労務担当は相談に応じやすい窓口を用意し、記録を残す。

これらを実行すれば、違反リスクを減らし、万一の指導にも適切に対応できます。

企業が守るべき管理ルール

年5日の時季指定義務

企業は、従業員が年5日以上の有給取得を確保できるように配慮します。従業員が希望しない場合でも、会社が時季を指定して取得させる義務があります。例えば、申請がない繁忙期を避けて会社が取得日を指定し、事前に通知します。これにより未取得を防ぎます。

就業規則への記載

有給の取得方法、時季指定の方針、申請手続きなどを就業規則に明記してください。具体的なルールを示すと、従業員と会社の認識が一致しやすくなります。例:半日単位の取得可否、繰越の扱い、代理者手配の基準。

年次有給休暇管理簿の作成・保存

取得日数や時季指定の記録を管理簿で残します。記録は書面か電子で保存し、社内の点検で確認してください。給与台帳等と同様に、必要期間保存する運用が望ましいです。

取得促進のための運用例

定期的な取得推奨日を設ける、上司が個別に面談して取得を促す、社内システムでリマインダーを送るなどが有効です。部署ごとの繁忙期を考慮して調整します。

トラブル防止のポイント

・申請と付与の証拠を残す
・運用ルールを周知・教育する
・個別事情に配慮して柔軟に対応する
・労使間でルールを確認し合う
これらを実行すると法的トラブルや誤解を避けやすくなります。

退職時の有給休暇の扱い

有給は退職時でも使えます

有給休暇は労働者の権利です。退職する場合でも、残っている有給を消化することが原則として可能です。退職前にまとめて使う、引継ぎ期間に分けて使うなど、働き方に合わせて調整できます。

手続きの流れと実務上の注意点

  1. 残日数の確認:まず自分の有給残日数を確認します。就業規則や勤怠システムで分かります。
  2. 申請:退職届や退職希望日と合わせて、いつ有給を使うかを会社に伝えます。書面で残すと安心です。
  3. 調整:業務上の理由で日程の変更を求められることがあります。話し合いで調整し、合意を得てください。
  4. 給与の扱い:有給消化中は通常の賃金が支払われます。給与明細で確認しましょう。

未消化分の扱い(買い取りなど)

会社の就業規則や労使協定で未消化有給の買い取りが定められている場合があります。規定がないときは買い取りが行われないこともあるため、事前に就業規則を確認してください。

突然の退職時のポイント

急な自己都合退職でも、残有給を申請する権利はあります。ただし、手続きや業務引継ぎの関係で調整が必要になるため、可能な限り早めに連絡し、文書で取り決めることをおすすめします。

相談先

トラブルがある場合は、まず社内の総務や労務担当に相談してください。必要なら労働相談窓口に相談する方法もあります。

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